大崎事件再審取り消し 「許されない決定だ」−−支援者ら憤りの声 /宮崎

今日の朝日新聞に「司法の権威優先」と見出しがあったので、興味をひかれた。
決定要旨を読んでみると違和感を感じる部分がある。

大崎事件決定要旨
2 原決定は、原審で新鑑定として提出された城鑑定補充書、池田鑑定書などを検討。事故死の可能性が指摘され、頚椎(けいつい)前面の組織間出血は、夫の弟中村邦夫さんが自転車から転落して頚椎などに損傷を負い、死亡した可能性のあることを意味することが明らかにのに対し、絞頚を示す所見は認められないから、タオルを巻いて窒息死させたとする夫と義弟の自白の信用性を慎重に吟味する必要があると判示する。
しかし確定判決は、城鑑定書が「他に著しい所見を認めないので窒息死を推定する他ない」などとした範囲内で、夫や義弟の自白との整合性を判断しているのであり、索条痕などが認められないという新鑑定が加わっても、確定判決の認定に疑いは生じない。
城鑑定補充書は、死体の損傷だけを見れば自転車から転落して事故死した可能性もあると言及したにすぎない。死体の各部位に同時期に生じた各損傷について事故死との関連を合理的に説明していないので、証拠価値は高くない。
池田鑑定書は、死体から明らかとは言えない見解に不確実な推測を重ねたものであり、明らかな頸部圧迫を示唆する所見は全くないというのも推論にすぎず、証拠価値は高くない。
新鑑定を併せ考慮しても、確定判決の事実認定に疑問を生じさせるには至らないと認められる。
   (中略)
5 原決定は、原審の立場で確定判決審が取り調べた証拠を全面的に評価し直している。新たに提出された義弟や義弟の妻らの供述について特に判断することなく、旧証拠と併せ考慮すると同人らの従前の供述の信用性には疑問が生じるなだとし、改めて確定判決の事実認定全体の当否を判断している。
このような判断のあり方は、判決確定により動かし得ないものとなったはずの事実関係を、証拠価値の乏しい新鑑定や新供述を提出することにより確定判決の安定を損ない、三審制を事実上崩すことに連なるものであって、刑訴法の再審手続きとは相いれないものといわなければならない。
6 次の点についての原審の判断は不適切であるがさらに付言すると、
①近所の人が邦夫さんを連れ帰った状況からは死因に結びつく頚椎等への損傷を負った事情はうかがえない。事故死の可能性があるならば、邦夫さんが遺体となって牛小屋の堆肥(たいひ)に埋もれていたことについて、なんらかの事情が認められるべきであるのに、この点の判示はない。
②夫や義弟の自白が客観的証拠により裏付けられていないというが、スコップ2本とフォーク1本が確定判決審の証拠として採用されている。カーペットは畳まれるなどして糞尿(ふんにょう)が他の箇所に付着したことが十分考えられ、糞尿跡が各所にあることは自白の信用性を疑う事由にはならない。
確定判決は恨みを動機として採用しており、殺人の動機が不自然とはいえず、捜査官らによる不当な誤導とも認めがたい。夫や義弟があいまいな証言をしたのは請求人の関与を認めることをはばかったと見るのが自然で、動機の自白に疑いはない。
     (中略)
⑥夫、義弟の自白の根幹部分に変遷があることは、第一審判決確定までに検討されており、自白の信用性を疑う事由にならない。原決定が不自然と指摘した点は、自白の一部を取り出して評価したことなどから相当でない。また、自白内容が共犯者の自白と必ずしも符号しているわけではないから、捜査官の強制や誘導があったと疑うのは相当ではない。義理のおいは原審で警察官から犯人と決めつけられてあきらめたなどと述べているが、虚偽の自白をした理由としてはなおざりで信用できない。
     (後略)
朝日新聞04/12/10、37面から

下線をひいた部分が特に違和感が強い。
箇条書きにすると、

  • 城鑑定書の「他に著しい所見を認めないので窒息死を推定する他ない」という見解を根底において全体のストーリーが展開しているが、これは根拠として薄弱すぎないか。この鑑定書をもとにストーリーが形作られているように思える。
  • 「判決確定により動かし得ないものとなったはずの事実関係」という一節も違和感が強い。裁判官は全てを見通す全能者か。あくまで証拠をもとに推測しているだけではないのか。別の情報が入れば、真摯に検討すべきではないだろうか。
  • 自白についても感度の鈍さを感じる。閉鎖された空間で、長期間にわたって心理的圧力をかけられ続ければ、捜査官の誘導に従ってしまう可能性はありうるのではないか。「なおざりで信用できない」でいいのだろうか。

ここに並べたのは、あくまで決定要旨を読んで感じた違和感である。この事件の情報や各裁判所の判決・決定を調べたわけではない。
しかし、どうも裁判所の慣習や常識はおかしいと感じる。それともこの決定がおかしいのだろうか。


大崎事件全体の情報に関しては、大崎事件(鹿児島)を参照した。