仁木健『ADD:機械仕掛けのホムンクルス』角川スニーカー文庫 2004

そのなんだ、とりあえずアイリーン萌え。


ではなくて、非常に惜しいと感じる作品。
出だしは結構良いし、設定も面白い。ヒューマニズムがまったく逆の意味になってしまった社会というアイデアは非常にいい。
しかし、粗が目立つ。少々目立ちすぎかもしれない。
物語上、重要な役割を果たすカレル・ラウディスの描写が、どうも滑り気味なのが一番問題だろう。また、比較的ページ数がきついなかでアイリーンの感情まで扱ったのもどうだろうか。唐突感が拭えないし、物足りなく感じる。
クライマックスの戦闘シーンが、あまりに奈須きのこテイストなのもいただけない。
設定面にもいくつか欠点が散見される。第一にヒューマニスト国家の造形がぬるいこと。よっぽど強力なイデオロギーを持たないと世界を二分する陣営にはなりがたいだろうし、錬度も何もないならずもののような兵士は近代戦において全く価値をもたない。ヒューマニスト国家の中心的なキャラクターには、保身と権力欲を超えたなにかがあってもいいのではないだろうか。
「無機人三原則」の第一条も気になるところである。「法律や公共の利益を守らなければならない」では、いくらでも虐殺を遂行できるロボットになりかねない。過去の歴史でも、公共の利益のために一部を排除するという論理で、虐殺が行われてきた。「法律」や「公共の利益」といった曖昧なものでは、例えば人を殺しても良いという法律が出来てしまったときなど、とんでもないことになりかねない。アシモフの「ロボット三原則」の「人を殺してはいけない」のような、あいまいさのないものである必要があるだろう。それでも、「ロボットと帝国」では、文明的発展と人の死の狭間で「苦悩」するロボットがでたのである。
批判の分量がかなり多いが、それなりに面白かったので、続刊には期待している。