上田信『伝統中国:<盆地><宗族>にみる明清時代』講談社選書メチエ 1995 ISBN:4062580357

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面白かった。面白かったのであるが、私には物が大きすぎて咀嚼しきれない感じがある。史的システム論などのより大きな問題に繋がっているため、氷山の一角と言うところで、私の目からは全貌が見えてこない。。
「浙江の山間地域から一つの盆地を選び出し、そこで生きている人びとの歴史をさまざまな角度から眺め、重層的に描き出」すのには成功していると思う。しかし、ディテールが不足しているのではないか。選書という性格上仕方がないことかもしれないが。徹底的にブローデルの『地中海』のような浩瀚な書物がになり得たのではないだろうか。
全体として流れはスッキリしているものの、第3章の第3節「秩序を超える」は、他の部分とつながりが見えにくい。単体で取り出せば面白いのだが、「延々と続いた議論は、螺旋運動をしながらふりだしに戻ったことになる」と言われると、えっ、そうなんですかと言う感じがする。ようは私の読解力と知識の不足なのだが…
最後を読んでいてどこか既視感のある文章だと思い、論文コピーの山を発掘したら同著者の「史的システム論と物質流:十八世紀中国森林史のために」(『史潮』第38号、1996)が出てきた。
以下、同じ著者の本のメモ
『トラが語る中国史:エコロジカル・ヒストリーの可能性』山川出版社 2002 ISBN:4634490501
『森と緑の中国史:エコロジカル-ヒストリーの試み』岩波書店 1999 ISBN:4000252852
(訳書)ロイド・E・イーストマン『中国の社会』平凡社 1994 ISBN:4582482074