北山晴一『おしゃれの社会史』朝日選書読了

おしゃれの社会史 (朝日選書)

おしゃれの社会史 (朝日選書)

北山晴一『おしゃれの社会史』朝日選書 1991(ISBN:4022595183


19世紀パリの都市の近代化と衣生活の変動、最終的には現代的な消費社会にいきつく、の相互作用を論じたもの。かなり難しい上に、私の興味からは少々外れているので、感想が書きにくい。
ざっと思い出すままにトピックを並べる。パリの近代化、「汚物都市」から「清潔革命」へ。既製服による民衆層の衣服消費の拡大とそれを通したブルジョワ的価値規範への統合。オスマンの都市改造による「開かれた都市」の出現と、それに乗って発展するデパート。メディアを通じたモードの架空消費・間接消費が刺激する消費社会。モードの社会統合効果。などなど…
何度か読み返さないと、きっちり理解できなさそう。


印象深かったのが、服装を通じたブルジョワ的価値規範への統合の部分である。

労働者は自分の着ている服にふさわしい態度をとろうとするものだ。… 清潔で快適な衣生活は道徳感覚の芽生えを意味する。社会にとっては、これはすでに秩序の補償である。(p.158)

という言葉に率直に表明されている期待が、なんというか特に印象的だ。
今現在でも服装コードはいろいろな情報の伝達手段である(例えばおしゃれ系VSオタクやスクールカーストなど)が、この時代は「ブルジョワ的規範――衛生、健康、慈愛、家族主義、秩序志向、精神的。経済的安定志向――」の伝達が専らであったと。


あと、本筋とは離れるが、注文服産業と既製服産業の争いがどこかで見たような感じで可笑しかった。


以下、印象に残った一節の抜書き。

とくに一世紀間のデパート全盛の時代を終えた現代のパリは、食品部門を除き、流通機構は再び小規模店――衣料部門でいえば生産単位でもあるブティック――の時代に入っているだけに、中小企業の政治動向には無視しえないものがある。彼らは数のレベルだけからみても、時に決定的な影響力を行使しうる地位を保っているのである。ちなみに、フランスでは衣料品小売り業者が約五万(ドイツでは四五〇〇)あり、ドイツに比べて小売りマージンは二倍も高いという。これではフランスの衣料消費が伸びないのは当然だ。だが、多くの場合製造業者である小売り業者の発言力はきわめて強力で、商習慣の合理化は容易ではないという。大手スーパーでは、十九世紀の既製服産業がある程度導入することに成功した大量生産品、すなわち単調ではあるが丈夫で品質もよく、しかも安い商品を仕入れるためには、外国生産者に応援を頼まなくてはならないほどだという。(p.183)

デパートの発展に伴ってもう一つの新現象(むしろ新風俗か)が発生した… 女の城の人混みを秘密の快楽に利用する男たち、痴漢の出現がそれである。
  ………
第四段階はさらに特殊な人種だ。いわゆる「切りさき魔」である。彼らはハサミで女性のドレスやマントを切り取って歩く。切り取った布地は、日時、店名、女の特徴、感じた歓びの度合いを記入したカードとともに机の抽出(ママ)に大切にしまっておく。(p.273-4)

この時代が痴漢の出現期なのか。条件さえ整えば、痴漢というのはどこにでも出現するのだな。いやはや。
第四段階の痴漢などは、現在の日本で言えば下着泥棒みたいなものか。