金田章裕『微地形と中世村落』読了

微地形と中世村落 (中世史研究選書)

微地形と中世村落 (中世史研究選書)


中世の農耕の展開に対する微地形の影響を論じたもの。2万5千分の1の地図と首っ引きで読まないとよく分からない本。そこまでやらなかったけど…


古代末から中世前半には、耕地の展開は、微地形、そしてそのなかの微細な起伏に規制されて、パッチワーク状であったこと。水かかりなどの条件によって、連続的な農耕が不可能であったこと(現作率が低い)などが明らかにされる。12世紀あたりには、奈良の条理地域などでも、耕地が一円的に展開していたわけではなかった。


さらに、中世後半以降には、人工的な削平による地盤の掘下げと地形の平坦化による、集約的・安定的な水田耕作と、島畑の造成による畠作物の集約的生産が可能になったことが明らかにされる。
また、興味深い点としては、第三章の桂川の例が明らかにするように、歴史時代に入ってからも、激しく河道が変遷した川が少なくなかったこと。それが、耕地や社会の動向に大きなインパクトを与えた可能性があることであろう。奈良の皿池造成など水利施設の整備が荘園形成の契機となり、桂川の河道変遷による用水路の再編が、村落の結合を導いた契機になったとすれば、自然災害の社会機構への影響は非常に大きなものになるのではないか。


本書は、方法論について、非常に興味深く、勉強になった。しかし、熊本平野においてこれを応用する場合には、史料の問題が非常に大きなネックになるだろう。荘園図や坪付注文などの史料が多用されているが、熊本平野に関してこれらの史料は存在しないだろう。また、関西・中部の平野部では、島畑が造成され、集約的な畑作物の生産が行われるようになったそうだが、熊本平野では、そのような島畑の存在を聞いたことがない。このあたりの経済状況(おそらく市場交換の密度の差の問題だろう)の差異が、定住・耕地形態に、どのように表現されるのかというのも興味深い問題だろう。