陣内秀信・岡本哲志『水辺から都市を読む:舟運で栄えた港町』法政大学出版局読了


アムステルダムヴェネツィア、蘇州、バンコクなど世界の港湾・水運都市と日本の中近世からの港町の都市構造を、現地調査から読み解いたもの。
建築・都市計画系からの分析であることが、歴史学方面から都市を学んだものには興味深い。
また、実際に船をチャーターして、水上から都市を見て、分析していることが、本書の最大に独自性だろう。
海外編では、都市の空間構造と水との関わり、水辺という地形的制約と都市の形成、水と人との具体的な関わりなどが、描写されていた。それぞれの都市・地域でバラエティがあり、興味深かった。
日本編では、九頭竜川最上川流域の舟運都市と瀬戸内海・伊勢湾海域の港町が調査されている。
近世港町の一般的な空間構造とそのバリエーション。花街の位置など都市の空間構造から読み取れる、港町の社会的特質などが判明して、おもしろい。
本書を読むと、実測などはご免こうむりたいが、実際に港町に足を運び、その土地の実際の空気・町並みを見・感じることは、非常に魅力的だろうと感じる。少々内陸側に住んでいることもあって、あまり港町というものに関わりなく(車を持っていないことが弱点になっている)きたが、少し遠出して見るのも楽しいかもしれない。


本書で日本の港町の現状を見ると、現在の日本を水とのかかわり方を根本から間違えているのではないかと感じる。
港町を海から切り離して、コンクリで固めた護岸を建設してしまうことだけではない。河川を須らくコンクリートの堤防で固めてしまうこと、湿地を埋め立てて宅地化すること、山を削って宅地化しあげく都市型水害に見舞われる、子供を川で泳がせない・泳ぐには危険な状態にしてしまう、などなど。確かに、日本は災害大国であり、防災のためにやむをえない部分はある。しかし、水を制圧するやり方は、長い目で見ると、コストがかかり脆弱性が増えるだけだろう。地盤の弱い湿地まで都市を拡大したことが、地震防災の弱点になっていることなどその際たるものだ。
私自身、たいした考えは持ち合わせていないが、もう少し 何とかならないものかな。


また、アムステルダムにハウス・ボートが多いという記述が印象に残った。
確か、10年ほど前だったと思うが、海上に家つきの船を浮かべて生活しようとした男性を、最終的に警察が強制排除する事件があった。その男性の件については、確かに廃水処理などで問題があっただろうが、船上で生活すること自体は、それが悪いこととは感じられない。そして、そういう生活を、先進国でも、実際にできる国があることに驚いた。
そもそも、50年程前までは、家船で生活する漂海民が日本にもいたことを想起すると、なんで日本では水上生活が全く跡を絶ったのか、そこに治安上の要請があったのだろうとしか考えられない。


文献ピックアップ:
陣内秀信編『イタリアの水辺風景』プロセスアーキテクチャー 1993
上田篤『日本の都市は海からつくられた』中公新書 1996
沖浦和光『瀬戸内の民俗誌:海民史の深層をたずねて』岩波新書 1998
西田正憲「瀬戸内海の発見:意味の風景から視覚の風景へ」中公新書 1999
谷沢明『瀬戸内の町並み:港町形成の研究』未来社 1991
日本福祉大学知多半島総合研究所、冊子『伊勢湾・港と舟の歴史』運輸省第五港湾建設局 1994
日本福祉大学知多半島総合研究所『常滑焼と中世社会』小学館 1995


研究を援助した機関:ミツカン水の文化センター