西和夫『海・建築・日本人』読了

海・建築・日本人 (NHKブックス)

海・建築・日本人 (NHKブックス)


海を見る/海から見られる建物を軸に、日本人がいかに海と関わってきたかを追求した書。
先史時代の遺跡の望楼、望楼を持つ廻船問屋の商家群、島にある港町を中心に、海・水上交通と関わる建築物が多数かつ多様に存在するかを明らかにし、日本人がいかに海と関係が深かったかを浮き彫りにする。
時国家と平戸についての記述が、調査の密度を反映するのか、分量が多い。
巨大な建物だったと伝承される原時国家を史料から推定し、廻船業をも営む時国家が海から見えることをも重視していたためであるとする。また、同様に海を見る/海から見えることを重視する建物群が、各地に残る望楼を持つ廻船問屋の家をはじめ、多数存在することを明らかにする。


続いて、平戸の町並み・建築について。
著者は、平戸オランダ商館の復元関係の依頼をうけて何度も平戸を訪れるうちに、町並みが次々に失われていること、海との関係の記憶が薄れつつあることに気付く。
そして、観光立市を目指すならば、商館の倉庫の復元ひとつでは人は呼べない。町並みに魅力がなければならないと指摘する。
特に、平戸のオランダ商館跡地周辺には観光バスを駐車する場所がなく、観光客はかなり歩かなければならないだろうこと。そして、歩く以上は町並みに魅力がなければ、観光客にとっては苦痛にしかならないと述べる。
そして、手弁当で平戸の町並みを調査し、残った設備などから、平戸城、そして藩の建築物が船での移動を前提として建設されていることを明らかにする。


しかし、ここで印象に残ったのは、平戸市の町並みに対する無関心。

オランダ商館の復元もいいが、歴史的な雰囲気を感じさせる町並みが消えていくのは残念だ。こう思って市当局になんとかしようと提案した。すると、古い建物があるかどうか、たとえあったとしてもそれが価値をもつのかどうか、調査していないのでわからないという。わからないから手を打つこともできないと言うのである。
では調査をすればよいではないか、と思うのだが、こんどは人手も予算もないからできないという。
(p.204)

なんというか観光で人を呼ぼうと全然思っていないだろうとしか言いようがない。
箱物思考から脱却できていないな。