選書・学術書の読書ノート

後になるほど疲れていい加減になっているが、ここしばらくに読んだ本のメモ。

東南アジアの魚とる人びと (叢書・地球発見)

東南アジアの魚とる人びと (叢書・地球発見)

フィールドワークを元に、東南アジアの小規模漁業の具体的状況を明らかにしている。
資源管理・流通・時間経過による変動の3つの視点から追及している。

  • 松本寿三郎・吉村豊雄編『火の国と不知火海

火の国と不知火海 (街道の日本史)

火の国と不知火海 (街道の日本史)

紙幅不足もあろうが、どうも物足りない。
流域・地域単位の記述は興味深いが、その地域の構造は分かるほどには、書き込まれていない感がある。
私の読み取り能力の不足もあるのだろうが…

  • 前田正明・櫻庭美咲『ヨーロッパ宮廷陶磁の世界』

ヨーロッパ宮廷陶磁の世界 (角川選書)

ヨーロッパ宮廷陶磁の世界 (角川選書)

ヨーロッパと東洋陶磁の接触から産業革命の直前あたりまでの、ヨーロッパにおける磁器の歴史をまとめたもの。
宮廷文化の中に磁器が占める位置について詳しい。
中近世の東西貿易に興味がある人間としては、はじめの方のヨーロッパに磁器が紹介される部分が興味深い。ヴンダーカマーの目録などから、初期の磁器の広がりが紹介されているが、手軽に入手できる日本語の本では、類書がなく貴重。スペイン・ポルトガルの王室から、磁器についての情報が広がっていく様が分かる。
ただし、史料の出典がないのが難点。一般向けの選書のため仕方がないことだが、本書で紹介されている事例・史料を後追いできる情報が欲しいところ。せめて原史料にあたったのか、文献からの情報か分かれば便利だったのに。

新書形態で刊行された阿蘇一の宮町史の一冊。
平安後期の大宮司職と阿蘇庄の出現から戦国末期の島津家による中世阿蘇家の崩壊までを描く。
阿蘇氏についてのまとまった本は意外とないので便利。

海のアジア〈1〉海のパラダイム

海のアジア〈1〉海のパラダイム

正直言えば、「海のパラダイム」を創出しきれていない。
あとは、時代が変わってしまったなという感覚がある。911以降の世界情勢の不安定化が、越境・国民国家の超越といった価値観を色あせさせたというか。その意味では、読むのが遅かった。旬を逃した感が強い。
あまり面白いとは思わなかったが、この中では「海のパラダイム」に反論して見せた村松伸「アジア都市の流転」がよかった。また、具体的な問題を検討した「海の感受性」の2編の論文は面白かった。

  • ゲルト・アルトホフ『中世人と権力』

中世人と権力―「国家なき時代」のルールと駆引 (中世ヨーロッパ万華鏡)

中世人と権力―「国家なき時代」のルールと駆引 (中世ヨーロッパ万華鏡)

中世中期を中心に、どのように秩序が組み立てられていたかを解説。
協議の重要性、紛争の解決が粘り強い交渉をつうじた調停によって仲裁され、一度受けれた解決策が強制力をもつ、が印象的。
中世の権力のルールを知るには手ごろな本。

  • 田代正之『我が「川尻」の追想

我が「川尻」の追想

我が「川尻」の追想

川尻に生まれ育った著者が、過去の川尻の様子を回想。
地質学者だけに地形変遷と歴史的変遷の関連について詳しい。また、地元ならではの「伝承」が興味深い。
一部、歴史的知識について間違いがある(例:84ページの図)が、その土地の人が体験に即しながら書いた証言として、非常に面白い。歴史のある土地に住むと、生活の中にも歴史が関わってくるのだなと、新興住宅地に育った人間としては興味深く思った。
本書の末尾にも触れられているが、基盤の違う別個の都市が、早い時点から一自治体として合併していたのが不審ではある。また、逆に開発されず古いものが残ったからこそ、それを生かすべきではないかと思う。

  • 濱下武志他編『海のアジア6:アジアの海と日本人』

海のアジア〈6〉アジアの海と日本人

海のアジア〈6〉アジアの海と日本人

こちらのほうが、1巻よりまとまっていて、面白い。
海を通じた人の交流、特に戦前に南洋に出て行った漁民たちと戦争が残した傷跡、海を通じた物のやり取り、近代日本と海のかかわりなど、多角的に扱っている。
シーレーン思想の歴史と現在」「アジアに延びる古着の道」が特に面白かった。また、南洋にでた漁民たちの痕跡が、戦争によって負の遺産しか残っていない様が…
水俣病が取り上げられているが、本当に(少なくとも戦後の)日本人が海を大事にしてこなかったというのが良く分かる。

近世ヴェネツィアの権力と社会―「平穏なる共和国」の虚像と実像

近世ヴェネツィアの権力と社会―「平穏なる共和国」の虚像と実像

近世ヴェネツィアの社会層の上昇を、主に刊行資料を利用して解明。
すでに近世以前の時点から、一部貴族の寡頭制への展開がありそれと結びついた書記官僚層の上昇が見られたこと、安定していたとされるヴェネツィア社会内でも一部社会層の上昇が見られ17世紀後半以降の新貴族の創出がその帰結であったことが明らかにされる。
特に内容に疑問はないが、ヴェネツィア社会の安定と言う「神話」を否定するには、寡頭制の展開の始まりを追及するべきではないか。貧困貴族に視点をすえた分析が必要ではないかと思った。
特に貧困貴族に関しては、寡頭支配を展開する有力貴族は、投票を通じておおよそ1000人以上の支持を獲得し、反対者をなるべく減らさなければならない。その支持をどのような回路を通じて調達したのか、貧困貴族の側はどのような事情で支配を受け入れたのかを明らかにする必要があるのではないか。

  • 海保嶺夫『エゾの歴史』

初心者向けとは言いがたい。
論争的性格が強いので、前提となる史料に通じていない私には、どう評価していいか分からない。
「民族」と言うものを、どこまで重視するかも難しい問題だと思う。
今は講談社学術文庫に入っている(ISBN:4061597507

  • ヴォルフガング・シヴェルブシュ『楽園・味覚・理性』

楽園・味覚・理性―嗜好品の歴史

楽園・味覚・理性―嗜好品の歴史

基本的な主張については特に異論はないのだが、どうも細かな歴史的事実や思想の面で、なんか微妙感があるというか…

  • ポール・ビュテル『近代世界商業とフランス経済』

近代世界商業とフランス経済―カリブ海からバルト海まで

近代世界商業とフランス経済―カリブ海からバルト海まで

大西洋沿岸のフランス海港都市(ボルドーなど)の近世商業について。九州大学での講義の原稿を訳したもの。初心者用?
アメリカ大陸との交易の重要性、河川を通じた後背地との関係の重要性について。

内容を覚えていない…

商業革命と東インド貿易

商業革命と東インド貿易

アジアとの貿易が、近代ヨーロッパで果たした役割を主張。ヨーロッパとアジアがポルトガルとオランダ・イギリス東インド会社によって200年かけて結合され、その後、イギリス東インド会社が輸入したキャラコが、産業革命に刺激を与えたと主張。
近代の東西貿易についての基本書。
文化的側面(東方産品の需要)と人脈・資金の流れの2点について追求する必要があるだろう。

  • フェリペ・フェルナンデス=アルメスト『食べる人類誌』

食べる人類誌―火の発見からファーストフードの蔓延まで

食べる人類誌―火の発見からファーストフードの蔓延まで

食の歴史を、調理の出現・社会の創出・食糧生産の開始・近代の変化などの視点から記述。議論は興味深い。広い視点で見渡していて面白い。
ただし、私自身の当面の興味(ヨーロッパ近世における東洋産品の需要)からは外れる。