リデル・ハート『第一次世界大戦』フジ出版 1976

第一次世界大戦〈上〉

第一次世界大戦〈上〉

第一次世界大戦〈下〉

第一次世界大戦〈下〉

 古典的な書物。返却期限に急かされなければ非常におもしろい書物。
 しかし、古典過ぎて、現在実際にその事件がどう解釈されているかよく分からないところが問題か。書かれた当時には、ずばぬけた出来の書物だったことは現在読んでもよく分かる。例えば、指揮官の行動や指揮に対する評価などは、そのままうけ入れられないようだ(第1次大戦との対照)。また、視点がイギリス中心で、いまいちフランスの方に目配りが利いていないように感じる。
 とりあえず、当時、巨大な軍隊を制御し十分に機動させ、戦争を終わらせる手段が存在しなかったこと。それにともなって長い塹壕戦と巨大な人命の損失が生じたこと。そして、そのような戦争の状況を理解し、それを生かすには、当時の軍事組織は向いていなかったことは確かだろう。
 あと、本書を読んで、第二次世界大戦当時の日本が、第一次世界大戦並の国制と軍のシステムで戦争に突入したのだなと感じた。
 編集について。原著にはどの程度注があったのだろうか。引用の典拠がないのは、非常に不便。欧米のこの手の文献には、脚注の類は必須だと思うのだが、翻訳の時に削ったのだろうか。それにしては、原注は存在するし… また、付録の地図・資料集がいまいち使いづらい。教科書的な解説を入れる代わりに、戦場の地形も書き入れた地図を入れて欲しかった。本文にある地名が見当たらず、地理的関係が分かりにくい事態が再三あった。「欧州戦争研究資料」もカタカナをひらがなに変える程度はして欲しかった。あるいは、改めて訳すか。

 平時の訓練は、現実から遊離した理想主義的解決を追求する傾向があった。なにぶんにも戦争は政治と同じく妥協の連続なのである。だから戦争前の準備段階で、現実への適用の必要性を予見し、調整する力を養っておかなければならない。参謀本部によって教育された1914年当時の指揮官には、これがほとんどできていなかった。p.65