アルフレッド・W・クロスビー『史上最悪のインフルエンザ:忘れられたパンデミック』

史上最悪のインフルエンザ 忘れられたパンデミック

史上最悪のインフルエンザ 忘れられたパンデミック

 ちょうど流行っているしということで、前々から読もうと思っていた本を撃破。
 1918年から19年にかけてパンデミックを引き起こしたスペインかぜについて、主にアメリカとその関連する場所でどのように流行したかを整理、そしてその後の研究史を概観している。
 パンデミックの展開。1918年の前半に比較的規模の小さい流行が発生し、すでにこれが若い層に中心的に感染し、20-30代に死者のピークを作り出していたこと。その後、8月末に、より毒性を増した第2波が到来し、軍事的な人間の移動に伴って、急速に拡大していく。インフルエンザの脅威は感染の早さだなと思った。
 個々の都市を扱った章も興味深い。実際に大流行が起こった時に地域社会で、何が起きるか。対策の有効性など。人間が集まる場所の閉鎖、マスクの着用は、公的な対策としてはあまり効果がないそうな。個人としての防護策としては、マスクは有効かもしれないが。まあ、それでも現在のパンデミックを見ると、それでもやらないよりはましなのかもしれない。つぎに、医療関係者が足りなくなること。患者が激増する上に、医療従事者自身が感染で倒れてしまう。フィラデルフィアの民間によるコールセンターやボランティアの患者輸送・看護活動が印象的。
 特に印象的なのが、葬儀・埋葬が滞る事態とごみ収集が麻痺してしまうという事態。広い範囲を動くごみ収集の職員は、感染の可能性が高くなるだろうから、対策が必要そうだ。また、今回は死屍累々という事態はなさそうだが、強毒性のインフルエンザが出現したときはどうなるか。日本では火葬されることになるが、火葬場の能力が追いつくのか、火葬場に人が集まるとそこがまた感染の温床になるのではないかというあたりが気になる。東海岸の公衆衛生担当者のアドバイスがすごい。

 まず木工職人と家具職人をかき集め、棺作りを始めさせておくこと。次ぎに、街にたむろする労務者をかき集めて墓穴を掘らせておくこと。そうしておけば、少なくとも埋葬が間に合わず死体がどんどんたまっていくといった事態は避けられるはずです p.118



 参考文献を見ると、著者は英語とフランス語が読めるだけの様子。ドイツ関係は英訳の資料を利用している。あと、著者紹介をみると、この人『ヨーロッパ帝国主義の謎』や『数量化革命』を書いた人なんだな。