臼田昭『イン:イギリスの宿屋の話』

イン イギリスの宿屋のはなし (講談社学術文庫)

イン イギリスの宿屋のはなし (講談社学術文庫)

 イギリス(というかヨーロッパ全体)で、社会関係の結節点を担った宿屋兼居酒屋であるイン、あるいはタヴァン、エールハウスを扱った書物。本書では、18、9世紀の文学作品に現れたインやタヴァンの描写から、近世から近代にかけてのイギリスでの状況を活写している。
 歴史学的な立場から見ると、利用した史料が小説や日記に偏っていて、物足りないとも感じる。だが、文学からの豊富な引用によって、当時の人々とインの関係を楽しく知ることができる。歴史の本というよりは、エッセイ的な書物。なんか久しぶりにギネスビールを飲みたくなった。
 個人的には、村のしがない雑貨屋、トマス・ターナーの日記に現れるインが、当時の村落社会の中でのインの役割をよくあらわしていて興味深い。
 あとは、17世紀から19世紀の文学者たちと酒の話とか、駅馬車と馬車宿、旅の大変さ、看板の話、都市の犯罪や悪徳と居酒屋などなどなど。