繁田信一『殴り合う貴族たち』

殴り合う貴族たち (角川ソフィア文庫)

殴り合う貴族たち (角川ソフィア文庫)

 平安貴族たちの暴力行為を、当時の日記類から拾い集めたという点では、面白い本。ただ、それの解釈という点で、どうもあやしい感じが。決め付けが強すぎるというか。たしかに、関白家の貴公子の素行が悪かったのだろうけど。
 当時の権力者である貴族たちが、どのような軍事力あるいは暴力装置を持っていたか。その一端は読みとれる。たびたび暴力沙汰を起こしている従者団こそが、平安貴族の基本的な軍事力だったのだろうな。当時の社会が自力救済の社会であったことが読みとれる。借金をめぐる紛争と暴力など。
 また、貴人の邸宅の門前を牛車で通り抜けることが非礼であったこと、非礼に対しては邸の従者たちが投石をもって制裁していたこと。花山法王の僧形の従者たち。このあたり、網野善彦飛礫や非農業民の議論とつながりそうだな。