谷畑美帆『江戸八百八町に骨が舞う:人骨から解く病気と社会』

 近世の出土人骨とそこから読みとれる健康状態に関する情報から、近世社会について明らかにする本。古人骨研究の紹介。江戸を中心に、北九州、島根、はてはイギリスやアメリカの古人骨研究を紹介している。ここ数年、古いお墓に興味があるので、実に面白かった。
 記述が総花的で食い足りないところがあるのと、全体の文脈が不明確なところが、欠点。しかし、人骨とその埋葬状況から、どのような情報が読み取れるかと言う点で、興味深い書物。
 墓と副葬品から、どのような社会階層の人間が埋葬されたのか、社会階層ごとの健康状態が読みとれる。また、人骨を分析することによって、栄養状態や(骨に影響が残る病気限定だが)どのような病気が流行っていたかが読みとれる。江戸の地下が人骨というか、墓場だらけだとか、水辺に浮かんだ死体は放置しておいていいとか。栄養状態、江戸とロンドンの衛生状態の差、梅毒の蔓延とその地域差なども興味深い。
 印象に残ったのは、ニューヨークのアフリカン・バリアル・グラウンド(意訳すれば黒人奴隷墓地)から出土した人骨の話。比較的若い人の人骨でも、重労働の結果骨が変形しているそうだ。未成年でも重労働が課され、その結果関節症などが遺骨から読みとれるとか。18世紀初頭の黒人奴隷の扱い、そして、それが発掘された遺体からストレートに読みとれること。
 古人骨からなにが読みとれるか、最初に読む本としては、適していると思う。