永田守弘『教養としての官能小説案内』

教養としての官能小説案内 (ちくま新書)

教養としての官能小説案内 (ちくま新書)

 終戦直後から現在に至るまでの官能小説の歴史。フランス書院マドンナメイトなど、文庫の官能小説は見かけたことがあるが、それ以前の状況は知らないな。
 とりあえずエロいシーンだけ抜き出しても、むしろ萎えることが多いし、むしろ描写やフェチのタイプによっては笑えるということがわかった。
 本書は、官能小説の作者に焦点をあて、時代ごとに著名な著者、流行の作風などを解説している。ある意味では、官能小説列伝みたいなスタイル。それだけに検閲・表現規制とのせめぎあいなど、社会とのかかわりはほとんど取り上げられない。その点では、期待はずれだったな。
 あと、ちょっと興味深いのが、オタク的なエロ表現との断絶。90年代以降、パラダイムノベルズのようなエロゲのノベライズ、あるいは各種のエロラノベがそれなりの規模で存在しているが、こちらのほうにはまったく言及されていない。作家によってはエロゲやエロラノベと官能小説両方に関わっている人もいるようだし、鬼畜系では重なる部分は多いと思う。しかし、全体的には支配的イデオロギーが違うように感じる。エロゲでもそうだが、「純粋な恋愛」イデオロギー(『「若者の性」白書』ISBN:9784098370474を参照、そのうち言及する予定)がかなり広い範囲に浸透しているように感じる。そのあたりに断絶を感じるのだろうか。例えば、本書の第二部ではジャンルごとに解説が行われているが、「女体遍歴系」みたいなスタイルはほとんど見かけないように思う。エロマンガでも、エロラノベでも、エロゲでも、そのようなスタイルは少数派ではなかろうか。そう考えると、どこか今までのエロ文化との断絶、というか「草食系男子」のエロ表現が自立した。そのような状況を考えることができるかもしれないなと感じる。