野中健一『虫食む人々の暮らし』

虫食む人々の暮らし (NHKブックス)

虫食む人々の暮らし (NHKブックス)

 世界各地の昆虫食、特に著者のフィールドである東南アジア、アフリカ大陸南部、日本の昆虫食とそれを行う人々の営みから、人間と環境との関わり方、認識、経験知などを析出する。
 第一章はラオスの農村の昆虫食の状況から雨季・乾季の環境の変動が大きな世界で、人々が環境をどのように生産的に利用しているかを概観。第二章は、アフリカ大陸南部地域、カラハリ砂漠のサン族の昆虫利用と空間や環境の認識、南アメリカモパニムシの流通の状況。第三章はカメムシの利用の仕方から、昆虫食の嗜好的側面を強調する。第四章は、日本を中心にスズメバチの捕獲摂食とそれが作る社会関係。第五章が昆虫食が文化人類学的にもつ意味を主張する理論編となっている。
 第五章の議論は、実のところよく理解できなかった。実際に昆虫を食べてみることから、感覚的な次元について省察することへ、そこから暗黙知、経験知へのアプローチ。そこから、それぞれの土地の人の周囲の環境の認識へ。また、そのような自然と対峙することから、臨機応変な対応力を養うことなど。話としては分かるが、それこそ体感的な部分で理解していないというか。
 非常に興味深いのが、ラオス南アフリカでは、食材としての昆虫が市場経済に乗って広く商品として流通していること。それも、ラオスなどでは肉より高価であること。日本においても、イナゴの佃煮やハチノコの缶詰などで流通しているし、利用されていない韓国のスズメバチを、現地の人に取り方を教えて、それを輸入するなど、以外な規模で流通しているそうだ。えーと言うべきか、感心すべきか。
 あるいは、カメムシの臭い(風味)やアリの蟻酸などが、香辛料やハーブ的な薬味として、食文化の中で機能しているというのも、食文化を考える上で興味深い。あと印象的なのは、最初のほうのヘボ(クロスズメバチ)の幼虫の押し寿司のなかなか強烈な見かけとか、大学の授業で昆虫を実際に食べさせてみる話あたりか。イナゴの佃煮は普通に食べられそうに思うが、イモムシ系は苦しいかも。味以前に、あの系統の長いのが苦手。魚釣りのえさなんかも触れないしな。ゴキブリほどではないけど。
 糞虫を食べると言うのも、ショッキング。いくら糞が抜けた時期をに食べると言ってもねえ。食えない生き物ってめったにないんだなと感心しきり。