俵浩三『牧野植物図鑑の謎』

牧野植物図鑑の謎 (平凡社新書 (017))

牧野植物図鑑の謎 (平凡社新書 (017))

 牧野富太郎の『牧野植物図鑑』と村越三千男の『大植物図鑑』の出版競争から、植物図鑑の歴史を明らかにし、そこからアマチュアを中心とする植物研究の歴史の一断面を明らかにする。
 明治40年ごろに植物図鑑が多数出版された状況を明らかにした部分が個人的には興味深い。明治37年国定教科書の導入に際し、理科教育が「身近な自然を観察すること」を重視する観点から教科書の導入を禁じられたこと。また、理科の授業を受ける生徒数の増加から、教師の参考書籍としての需要が大きかったこと。園芸趣味が、西洋の植物の導入で活性化したことなどが要因として挙げられている。
 私自身の興味が、熊本でのアマチュアを中心とする植物研究の歴史にあり、地方での植物研究の担い手に学校教員が目立つことと本書の内容、村越をはじめとする図鑑製作者の教員出身者が多いこと、図鑑の需要者として小学校教師が大きかったこと。このあたりがつながるように感じて、非常に面白いと思った。