谷口克広『信長の親衛隊:戦国覇者の多彩な人材』

信長の親衛隊―戦国覇者の多彩な人材 (中公新書)

信長の親衛隊―戦国覇者の多彩な人材 (中公新書)

 ここからしばらく信長祭り。中公新書の谷口克広氏著作を5冊連続で読む予定。
 一番最初に刊行されたのが本書。信長の身辺に近侍した小姓・馬廻衆などを取り上げる。文書を代筆する右筆や秘書的な外交・取次を行う文官的な人々、戦場で信長に直率されて戦う馬廻たち。信長の活動を直接担う人々。その出世コースや主要な人々の紹介など。
 いくつか面白い指摘がある。能力主義で身分を問わないと思われている信長の人材登用だが、実際には平民階級から立身出世した秀吉は例外中の例外で、通常はやはり武士身分の者が登用されたそうだ。ただ、それでも譜代の者よりも、国外出身の者を取り立てるのは、特殊なのだろうな。あと、基本的には信長の身辺の者が取り立てられていくのなら、やはり信長と波長が合う人物、階層的には武士身分の者が有利になるのだろうな。
 信長の覇業において、これら馬廻というのは、まさに中核的な役割を果たしたのだろうな。本書でも、信長自身が先頭に立って馬廻を中心とした部隊で突進する場面が何度も描かれる。忠誠心が高く、士気・練度が高い中核部隊というのは、前近代の戦争では無類の強さを発揮する。先日の『ノルマン騎士の地中海興亡史』でも、そのような場面は何度かあった。また、信長の戦績でも、少数の兵力で、多数の兵を打ち破る例が何度も見られる。
 また、本能寺の変でのこれら信長親衛軍の壊滅も印象的。本能寺には少数の小姓がいただけだが、馬廻たちは、中国攻めを目前に京都の各地に寄宿していた。彼らは、嫡子信忠のもとに駆けつけ、最終的には二条城で壊滅したようだ。何らかの所用で離れていた者以外は、大半がここで命を落としている。
 個人的には、近習集団の第一世代が面白い。武者というよりは、秘書役の人々。信長より年長で、外交交渉の仲介、面会や贈答品の取次なんかをやっていた村井貞勝らが印象深い。