谷口克広『信長の天下所司代:筆頭吏僚村井貞勝』

信長の天下所司代 - 筆頭吏僚村井貞勝 (中公新書)

信長の天下所司代 - 筆頭吏僚村井貞勝 (中公新書)

 信長の代理人として、朝廷との交渉や京都の統治を行った村井貞勝の活動を追ったもの。公家の日記や寺院などに発給した文書から情報を拾い上げて、再構成している。
 天下統一を狙う信長としては、朝廷との関係や都を平穏に統治しているという実績は、重要なものだったのだろう。それを担った村井の重要性というのは、華々しい合戦とは無縁とは言え、重要なものであったのだろう。また、だんだんと裁量を大きくし、朝廷に食い込みながら、信長の不興を買わなかった、そのあたりの身の処し方のうまさというのも、素晴らしい。
 全体の構成としては、編年式とでもいおうか、「天下所司代」の前史、天下所司代を務めた9年間について、一年ごとに史料から活動を抜き出し検討を加える。最後に、村井の活動の評価という形になっている。だんだんと、公家との関係が深化して行っているのが分かる。あと、史料の残存状況から、どうしても吉田兼和が多い。他の公家の日記が残っていれば、朝廷での活動がもっとクリアに分かっただろうにと思った。
 これにて、信長祭り完了。基本的にマイナー志向で、信長をはじめとする天下人とか戦国時代というのは敬遠しているのだが、こういう名脇役にフォーカスした著作は大好き。