- 作者: 伊藤之雄
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2009/02/01
- メディア: 新書
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しかし、やはり人気がないのが当然かなと、本書を読んで感じた。生来、生真面目で信頼のおける人物で、義理にもそれなりに厚い人ではあったのだろう。そうでなければ、官僚閥を作り上げて、そのボスになることはできないだろう。だが、やはり大日本帝国の権威主義的側面を代表する人物であったことは確か。伊藤博文が「憲政」の側を代表したのは対称的に。伊藤と比べると、明らかに視線が届く範囲が狭かった。その結果、政党に敵対的にふるまい、陸軍の独立と拡張を要求し続けて、後々の禍根を作ることになった。まあ、誰しも、死んで20年も30年もたった後のことまでは、責任を持つことができないものではあるが。ただ、組織が変質するということに対する認識はなかっただろうな。
本書を読んで興味深いのは、山県の権力がかなり後々まで、それほど強いものではなかったこと。特に、明治の前半には何度も政治生命の危機に陥っている。薩長両方の有力者から好意と信頼をうけていたことと徴兵制など近代的軍隊を作り上げる意思が、失脚を免れさせたのだろう。後は、関わった範囲の広さも印象的。陸軍に内務省、地方制度に教育勅語など、大日本帝国の根幹部分、あるいは悪い部分に関わっている。むしろ、軍歴は意外と大したことないような気も…
やはり、政党に対する敵対的姿勢と、政党の影響をそぐための制度つくりが、山県の業績に影を落としている。官僚、あるいは専門家による国家運営を重視し、政治参加を軽視した。そこに問題がある。専門家と政治参加のバランス、あるいは民意をどうくみあげるかというのは、常に問題になることであり、その観点からも山県有朋というのは興味深い存在と言える。