「国際的な技能移転」という趣旨で発足した外国人研修・技能実習制度。だが、来日する研修生の多くが「出稼ぎ」目的と公言するなど、建前と本音のズレが表面化しており、政府はほころびを繕おうと躍起だ。安い賃金で人手不足を補いたい業者側と外国人実習生の争いが訴訟に至る事例も各地で相次ぎ、研修生を支援する弁護士らは6月に全国組織の結成を目指して動き始めた。 （阿部峻介）
長崎県時津町の鉄工会社。陳洪華さん（31）が鉄骨溶接で火花を散らせていた。建材に使う鉄骨の溶接や組み立てをする46人のうち16人が、陳さんら溶接経験を持つ中国人実習生と研修生だ。
4歳の娘の学費を稼ごうと05年5月に来日した。1日7時間半労働が基本で、週に4日は数時間残業する。休みは週平均2日。貯金は約220万円だ。「昔は大金だったが、今はそんなに多い額じゃない」。娘が中学生になるころには日本で稼ぐ貯金も底をつくので、帰国後はタクシー運転手をして、娘を大学まで出したいという。
同社社長（67）によると、90年ごろから日本の新卒者が肉体労働を嫌う傾向が強まり、97年から外国人実習生を受け入れた。「きつい、汚い、危険の3K職種に若者は寄りつかない。工場も彼らなしでは人手不足。3年ではなく、5年間はいてほしい」
熊本県の受け入れ窓口機関の一つ、熊本繊維工業協同組合に来る中国人研修生たちも当初はみな「お金を稼ぎたい」と答える。中山貞幸理事長は「出稼ぎ感覚で来ることが業者とのトラブルにつながる」と考え、来日直後に研修生に講義する中で、「あなたは日本に何をしに来ましたか」と聞かれたら「研修です」、「研修生がやってはいけないことは」との問いに「残業です」などと復唱させ、制度の趣旨を確認している。
熊本県南部の農業協同組合も、農家の要請で05年から園芸農家への実習生受け入れを始めた。中国人女性4人を受け入れる農家の男性（57）は、約150アールのトマトハウスを持つ。日本人パートは高齢化し、来なくなった。「ハウスの維持には、中国人4人に頼るしかない」
働きたい研修生と、働き手を望む受け入れ業者。しかし制度上は、1年目の研修期間は労働も時間外研修も禁止されている。ある組合関係者は「制度の趣旨など建前にすぎないことはみなわかっている。だがあまり逸脱すれば研修生が来なくなる。私たちはただ息を潜めてやっている」と打ち明ける。
弁護士らが支援組織
制度のほころびに対処しようと、厚生労働省や経済産業省など関係省庁が改革案を出した。政府は3月、09年度までの3年間で取り組む「規制改革推進のための3カ年計画」で、1年目の研修機関の実務研修にも労働関係法が適用されるように法改正を求める閣議決定をした。
また、実習生らを法的に支援しようと、訴訟を担当する弁護士が6月1日、外国人研修生問題弁護士連絡会（研修生弁連）を発足させる。参加者は東京から熊本までの約30人。訴訟のための情報交換や情報発信、政策提言をめざす。
JITCOは「制度改正について各方面で議論されていることは承知しているが、現制度の運営をさらに適正化するため、引き続き最大限の努力をする」とコメントした。
「事実上の労働を許す制度」
昨年12月、熊本県天草市の縫製業者で働いていた中国人実習生の女性4人が、業者や窓口機関の組合、財団法人国際研修協力機構（JITCO）を相手取り、未払い賃金や損害賠償など約3578万円を求める訴訟を熊本地裁に起こした。
4人は「パスポートや通帳を取り上げられ、自由な外出は禁止された。研修機関の1年目から月130時間以上の残業を強いられ、残業手当は300円」と主張。組合や業者は「パスポートや通帳預かりは本人に頼まれた。紛争解決金も出した」と反論している。
4月には、同県阿蘇市のトマト農家で働いた中国人実習生の女性3人が農家や窓口機関、JITCOに未払い賃金や慰謝料など約1966万円の支払いを求め、熊本地裁に提訴した。
3人は食肉加工業者や別の農家でも働かされ「二重派遣された」と主張。時間外労働の時給が350-450円と県の最低賃金を大きく下回っていたとして未払い分の賃金支払いも求めた。農家や窓口機関は「二重派遣は認めるが、未払い賃金の支払いには対処してきた」と説明している。
外国人研修生権利ネットワーク（東京都台東区）の鳥井一平・全統一労組書記長は「国際協力という大義名分が違法行為の隠れみのになった」と指摘する。「政府は単純労働は受け入れたくないが、人では足りない。中小零細業者の求めに応じ、研修名目で事実上の労働を許す制度を編み出した。だが実態に即し、純粋な研修と労働力政策とを区別した制度につくり変えなければ、トラブルは無くならない」
どう見ても脱法行為です、本当にありがとうございました。
難民に対しては厳しい排除政策。人権侵害までも行っている状況で、この外国人研修・実習生制度は完全に矛盾しているよな。国からして順法意識がないのだから話にならない。どこが法治国家なのやら。移民にどう対処するかという問題に向き合わず、小手先で変な対処をするから問題になる。
