[読書]渡辺洋二『決戦の蒼空へ:日本戦闘機列伝』

決戦の蒼空へ―日本戦闘機列伝 (文春文庫)

決戦の蒼空へ―日本戦闘機列伝 (文春文庫)

 戦闘機関係の短文を集めたもの。主に大戦後半の不利になった局面が多く取り上げられている。証言を読むと、やはり空に上がっている戦闘機の数が違う上に、無線などの運用能力で劣る日本軍は、不利だったのだろうな。戦果よりも、消耗の方が大きいように見える。それぞれの章の切り口もそれぞれ面白いし、あまり取り上げられない紫電雷電鍾馗あたりがクローズアップされているのも良い。

 十月十八日の捷一号作戦発動でフィリピン決戦が幕を開けるとすぎ、高杉大尉を長として一式戦十数機の比島空輸を請けおった。福岡県雁ノ巣-沖縄-台湾を経由してルソン島クラークへ行く予定だったが、徳之島をすぎたあたりで日が沈み、編隊がくずれて、高杉大尉ら四機は沖縄・小禄、残る早乙女中尉(八月に進級)らは伊江島降着。夜間設備がまったくない伊江島飛行場に、主翼前照灯を頼りに着陸したけれども、砂地の滑走路に脚をとられて大半が壊れ、目測を誤った佐藤精一少尉が前の機に衝突、死亡し、整備員もまきぞえになった。p.310

 両大尉の着任からまもなくの十二月十三日、二度目のフィリピン空輸が行われた。浅田一佳男大尉、鶴田茂大尉、本多恵一中尉、それに真崎大尉の、第一-第四編隊に分かれた二式戦闘機「鍾馗」十六機のうち、空輸指揮官の浅田大尉は台湾・屏東へ向かう途中の十七日、天候不良で行方不明。ほかに中井良正少尉らの犠牲が出て、一回目の空輸時と同じく、予想外の出血を強いられた。p.313

 このあたりのフェリー途中の損耗については、戦略爆撃調査団の『ジャパニーズ・エア・パワー』(ISBN:4769807686)あたりでも指摘されていたな。こういう基礎的というか、裏方的な部分で日本軍は劣っていたのだろうな。