日本考古学協会の蔵書移転問題メモ

 昨日報道された考古学協会蔵書の海外流出問題について、当事者の言及をメモ。今回の件は、本当に痛恨の思い。しかし、個人的にはセインズベリー研究所へ寄贈を推進した側にシンパシーがある。最近、まとまった資料の類は海外においておいた方が安全であると思うし。産業技術史博物館構想のために集められた機械などの資料類があっさりと破棄されるという、直近の痛恨事を思い起こすと。橋下府政での博物館の存在とはで紹介されているような動きが、支持を受けている現状を鑑みると、日本国内では公的機関とは言えど、安心できない。
 蔵書受け入れに手を挙げたのが、海外の一施設だけだったというのは、日本の現状を考えると、まあそんなものかなと思ってしまう。6万冊規模の空きスペースを持つ図書館なんて、そんなにないだろう。しかも、それが未整理の状態であることを考えると、寄贈をうけても負担は相当なものになるだろう。6万冊の目録を作るだけで、いくらかかるのか。図書館ならそのためのリソースがあると言ってもそれなりにお金がかかりそうだし、考古学協会が一から始めるなら人件費や道具類だけで何千万円とかの数字になりそう。古い資料は、酸性紙の劣化とかで保存処置も必要だろうし、相当な額の費用を覚悟する必要があるだろうな。協会が自前で図書館を持つとしたら、箱は安く済ませても、管理人を雇い続ける必要があるし、維持管理費を考えると、毎年2、300万では済まないよな。お金がかかるものだ。むしろ、セインズベリー研究所が太っ腹って感じがする。
 今後考えられるの最悪のシナリオとして、セインズベリー研究所への寄贈が白紙になった挙句、考古学協会でも最終的に持て余して、破棄されてしまう。なんてことが考えられる。そのようなことにならないように、批判する側もきちっとした対案を持って臨んでほしい。
 以下、リンク。

日本考古学協会サイト内



 最後の意見書だけど、なんというか手続き論に終始して市川考古博物館を追い出された現状をどう打開するかの対案はないな。特に、「3.寄贈条件と相手組織との矛盾」は変。特にデジタル化に関して。国立国会図書館 資料デジタル化の手引きを見ると、必ずしも裁断する必要はないように思うが。裁断した方が早いし、安いのは確かだろうけど。

推進側の意見



 当時の理事の方のブログ。その1の

その報告を受けて、ならば「積極的に海外への寄贈を進めるべきだ」と主張したのは私自身でした。日本の貴重な「文化財」を救済するためにこそ、との趣旨です。日本国内が図書の取り扱いにかんする構造的な<氷河期>に襲われている現在、それを国内だけで防御しようとしても所詮は無理があります。むしろ海外に拠点を移すことのほうが危険の分散になると考えたからです。幸い1遺跡の報告書は最低でも300部はありますし、学術雑誌類も数百部以上のストックがあるはずですから、そのうちの1冊を寄贈という形で海外に避難させることは、なによりの保険になると考えたからです。


日本の国内に置いていたのでは、現実の埋蔵文化財に対してですら廃棄が叫ばれている昨今ですし、報告書の「死蔵」状態もたびたび指摘される現実ですから、報告書が「焚書坑儒」の憂き目にあう可能性だって充分に考慮すべきでしょう。その一部をイギリスに避難させ、そこでの活用を実現させることで、50年後100年後に救われることを目論む方が文化財の保存に資するに違いない。そう考えた次第です。

というのは、同感するところ。費用負担の問題も興味深い。

反対側の意見

まず協会年間予算配分を根本的に考え直し、所蔵図書の基礎整理(書誌データの入力・バーコードの添付など)を行なう人的措置を行なう。次にOPACなどの検索ネットに搭載し、会員始め一般市民の方々を含めた利用上の利便性を高める。以上は5〜6年の中期的展望のもとで実施する必要があろうかと思います。この間に個人・組織・企業など広く社会に呼びかけ、ふさわしい収蔵場所および金銭的援助(ネーミング・ライツを含む)を求め、恒久的な利用スペースの確保に努める。そのためにも協会内部をはじめ、外部有識者を含めた「協会所蔵図書有効利用検討委員会」を設置し、議論の経緯など極力情報公開に努め、意思決定の公開性を高める。
by 伊皿木蟻化(五十嵐彰) (2010-06-13 19:40)

 一番上の「日本考古学協会蔵書の海外放出に反対する」のコメント欄からだけど、今までできなかったことが、できるようになるのだろうか。今までも、金銭的援助を確保できなかったからこその現状なのではないだろうか。署名した人が1万円づつ出せば、とりあえず当座の課題はクリアできるが、その後は?
 最初にどんな箱を確保できるかで、今後の活用も規定されようし。

考古学関係者の各種意見





 これ以前に、「特殊番外14-1」から「特殊番外14-7」でも議論が行われている。海外への寄贈の効果について。


 そもそも、考古学的データの情報源としては、門外漢には使いにくいように思う。年度単位で報告書が出ることが多いから、同一遺跡でも分散するし、年報形式だったらなおさら。