- 作者: 井本三夫
- 出版社/メーカー: 新日本出版社
- 発売日: 2010/02/01
- メディア: 単行本
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近代初期以降の日本人のシベリア・カムチャッカへの進出。ロシア人の人口が少ないこともあって、ほとんど日本人が漁場を支配していたそうだ。しかし、主体は鮭鱒漁で、捕獲地のすぐそばに工場を作る必要がある蟹缶の商業化はなかなか成功しなかった。その後、船に工場を乗せる工船形式で成功し、増加する。第一次世界大戦からシベリア出兵の時期にソ連とのいざこざが増える。大戦後は、ソ連側の生産が拡大し、200カイリ水域の導入でとどめを刺される。
蟹工船での極端な労働の強化と暴力の横行。博愛丸とエトロフ丸の事件が特に取り上げられる。小林多喜二の『蟹工船』が博愛丸で実際に起きたことを下敷きにしつつ、他の蟹工船乗船者を中心にほかの蟹工船の幅広い情報も利用したことが指摘される。
年一回という低い回転率を取り戻すために一日18時間という過酷な労働が課され、そのために現場監督には暴力にたけた者が雇われることが多かったこと。勃興期に虐待事件が多かったことが指摘される。虐待事件を巡っては、法律家も資本家側に取り込まれたと思しき、不公平な裁判が行われ、加害者は比較的軽い刑で済んでいる。
また、蟹工船をめぐる暴力では、経営側の事実歪曲の動きが指摘されている。岡本信男の『近代漁業発達史』が、意図的に紛争・暴力行為について軽く書いていると指摘。エトロフ丸事件では、被害者側を中傷するメディア工作がおこなわれ、現在も被害者名が明らかではないなど、隠ぺいされていることが批判される。このあたり、水俣病とチッソの態度と相似しているように感じる。南米への棄民や旧植民地民への対処なども含め、日本近代の周縁部では、一貫して人権侵害が行われ、放置されてきたのだなと暗澹とした気分になる。
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まあ、大手は大概関わっている。しかし、小説ばかりが有名で、実際の歴史についての情報はネット上にはあまりないみたいだな。