中西隆紀『日本の鉄道創世記:幕末明治の鉄道発達史』

日本の鉄道創世記---幕末明治の鉄道発達史

日本の鉄道創世記---幕末明治の鉄道発達史

 まあ、それなりにおもしろかった。初心者向けに大まかな流れを見せる読み物としては、なかなかいいのでは。読むにも、負担が少ないし。参考文献が充実しているので、そのあたりも便利そう。


 全体的な流れとしては、蒸気機関車との遭遇、海軍伝習所や留学生などの初期の人材、東京横浜間の鉄道の建設、東海道線の建設、資金提供会社としての日本鉄道、私鉄の叢生、海外植民地の鉄道、東京駅など。おおよそ時系列順に描かれる。19世紀を通じた日本の鉄道史概観。技術にも、経済史にも踏み込まない分、敷居が低く楽に読めるのではないか。
 読んでいて意外に感じたのだが、かなり後々まで、基本的な計画については外国人技術者の支援が必要だったのだな。国産化や自立化というのが技術史のテーマとしては大きいが、ことこの時代に限ると、海外からの技術支援や資材の輸入に大幅に依存していた。だからこそ、資材搬入港の選定が重要だったのだろうし。
 あと、小野友五郎が気になる。幕府海軍のエリートで技術に秀でていた人物が、倒幕でキャリアが暗転。投獄・謹慎。新政府からの要請にもなかなか応じず、最終的には他にいないからという説得で、下級の技術者として出仕する。最終的に彼はどうなったのだろうか。鉄道に限ってしか語られていないので、非常に気になる。→小野友五郎


 以下、メモ。

 後にペリーは母国で、蒸気海軍(スティーム・ネイビー)の父とよばれているが、p.20

 ウィキペディアを見ると、結構いろいろとやっていたみたいだな。蒸気艦の導入強化や士官教育など、結構出世もしているみたいだ。しかし、フリゲートの艦名には、エリー湖の海戦の英雄である兄貴の名前がついているが。

 反対に、モレルが日本人に評価されたのは、自らの西洋を過大評価しない柔軟さだった。日本人はそこに、その他大勢の横柄な外国人技師にはないものを見ていたのである。土木の仕事は、その風土に合わせた慎重な対応が必要とされる。このことこそ、当時の日本人が求めていたものでもあった。日本の実情に合わせ、日本を近代的な独立国家に導くという点で、彼の残したものは大きいといえるだろう。p.87

 無名で若かったモレルが、横浜・東京間の鉄道建設で重用された理由。西洋人からは批判されていたようだが、その国へ合わせる適応性が評価されたという指摘。土木って、そうとう政治的な仕事だしな。本書を通じて、鉄道の計画というのが政治と切っても切れない関係であるってのは明瞭に見えるし。


 文献メモ:
石井寛治『近代日本とイギリス資本:ジャーディン=マセソン商会を中心に』東京大学出版会1984
犬塚孝明『密航留学生たちの明治維新井上馨と幕末藩士NHKブックス、2001
井上勇一『鉄道ゲージが変えた現代史:列車は国家権力を乗せて走る』中公新書、1990
片岡豊『鉄道企業と証券市場:近代日本の社会と交通7』日本経済評論社、2006
国土政策機構編『国土を創った土木技術者たち』鹿島出版会、2000
篠原宏『海軍創設史:イギリス軍事顧問団の影』リブロポート、1986
杉山伸也『明治維新とイギリス商人:トーマス・グラバーの生涯』岩波新書、1993
鈴木淳編『工部省とその時代』山川出版社、2002
砂川幸雄『大倉喜八郎の豪快なる生涯』草思社、1996
砂川幸雄『中上川彦次郎の華麗な生涯』草思社、1997
田中時彦明治維新の政局と鉄道建設』吉川弘文館、1963
H・W・ディッキンソン『蒸気動力の歴史』平凡社、1994
藤井哲博『咸臨丸航海長 小野友五郎の生涯:幕末明治のテクノクラート中公新書、1985
藤井哲博長崎海軍伝習所:十九世紀東西文化の接点』中公新書、1991
藤原浩『シベリア鉄道:洋の東西を結んだ一世紀』ユーラシア・ブックレット東洋書店、2008