大木康『中国明末のメディア革命:庶民が本を読む』

中国明末のメディア革命―庶民が本を読む (世界史の鏡 情報)

中国明末のメディア革命―庶民が本を読む (世界史の鏡 情報)

 明末の16世紀に急速に書物の出版量が増え、それとともに書物の形態やジャンルのあり方の変化が起こった。その状況を整理している。
 この時期に、印刷本の出版量が拡大、それとともに「出版文化人」が出現し、幅広いジャンルの書物が出版されるようになり、読者層が拡大したこと。書物の形態が胡蝶装から線装に変化し、糊を使わない分生産スピードが増大したこと、図像の利用の拡大、知識人の娯楽としての白話小説の爆発的拡大などの変化が起こったことをまとめる。
 終章では、明末に出版が多様性・規模・速度の点で拡大し、例えば、政治的な対立、「董家焼討事件」や東林・復社をめぐる政治的対立の過程で、パンフレットのような印刷物が世論形成に重要な役割を果たした事が指摘される。このあたり、17-8世紀あたりのヨーロッパの出版と似たような感じで興味深い。ただ、それがどういう背景で起こったのかとことまで踏み込んでいないのが不満かな。そこまで行くとものすごく難しい課題なのは確かなのだが。知識を得るには、便利な書物。