竹田いさみ『世界史をつくった海賊』途中放棄

世界史をつくった海賊 (ちくま新書)

世界史をつくった海賊 (ちくま新書)

 あー、こりゃだめだわ。
 貿易商人=軍事企業家=海賊がイギリスの海外発展において重要な役割を果たしたというのは確かなんだけど、それを組み立てる道具立てが全然ダメダメ。中世から近代にかけての商業史や16世紀から17世紀の国際政治や「国民国家の形成」、「軍事革命」についての知識がないと、このあたりの時代はまともに書けない。知識がないから、イギリスの「無敵艦隊神話」やイギリス帝国形成の「神話」に飲み込まれてしまっている。
 そもそも17世紀あたりまでの戦争では、軍隊はかなりの部分、軍事企業家の請負に依存していた。海上においては私掠免状による私掠船の利用、陸上では30年戦争のワレンシュタインに代表されるような傭兵隊長が、自己で資金調達をして戦争に軍事力を提供している。フランシス・ドレークを代表とするエリザベス朝のイングランドが利用した私掠船は、かなり有名な事例ではあるが、その一例でしかない。海賊=貿易業者というなら、16世紀にはむしろオランダの方が活躍している印象だ。あと、常設の海軍というのが、もっと後の時代に出現することも忘れてはならない。イギリスは17世紀後半に入ってから、フランスにいたっては絶対王政期を通して四苦八苦していたようだ。この時代だと、各港町から供出させた艦隊を寄せ集めたものが大半だっただろう。その点で、海賊と王室船の「連合艦隊」は別段奇異なものではない。
 まあ、英語文献のリストが一番役に立つくらいかな。日本語文献を見ると、かなり雑多な書籍の寄せ集めだしな。