「帰宅困難 その時、あなたは―― 上下」『朝日新聞』

 上の記事と関連して。今回の震災に先立って、阪神大震災に関連して「帰宅困難」の問題について特集している。実際の交通マヒに対して、この時期はどの程度、現実に有用だったのだろうか。実際のところ、都市地図で、不案内な場所をいきなり歩くのはかなり頼りないし。
 「下」でディズニーランドや六本木ヒルズの対策について言及しているのが興味深い。現実に災害が起こって、このような対策はどのように運用されたのだろうか。液状化で閉鎖された時には、どのような対処を行ったのか。あと、一晩動けないなら六本木ヒルズに逃げ込むのは手だなと思ったし、たしか実際に何らかの対応がされていたみたいだけど、こちらも実際はどうだったのか気になる。


「帰宅困難 その時、あなたは―― 上」『朝日新聞』11/1/14

地震歩けば危険だらけ:狭い歩道・古い歩道橋・頭上に高速道


事前に訓練、ルート確認を
 平日の昼間、仕事や買い物中に大地震が起きたら、交通手段が途絶え、家に帰れない 「帰宅困難者」になりかねない。徒歩で帰るしかないが、多くの難題が待ち受ける。
 東京都内では、国道なのに歩道が極端に狭い所が目立つ。車道を歩きたいところだが、都防災管理課の担当者は 「緊急車両が通るので歩道を歩いてほしい。自身の安全のためにも車道には出ないで」と呼びかける。
 歩道橋を渡るしかない交差点も多いが、幅が狭いうえに、老朽化でさびだらけ。災害直後でも安全に歩けるか心配だ。頭上で首都高速が交差する道もあり、耐震補強は進んでいるものの、阪神大震災で横倒しになった阪神高速のイメージがぬぐい去れない。
 震災があった1995年に、都庁から自宅までを歩く「サバイバル・ウオーク」を始めた「帰宅難民の会」の吉武正一代表は「事前に帰宅訓練をして、自宅まで安全に歩けるか確認してほしい」。疲れたら休憩するのではなく、「自分の体力と相談し、一定時間ごとに休み、水を補給すると疲れにくい」とアドバイスする。


連絡法、家族と相談
 家族の安否確認はどぅすればいいのか。阪神大震災の起きた1月17日が来ると、兵庫県西宮市の団体職員、吉井正彦さん(66)は、しまってある黒電話を自宅のファクス兼用電話と付け替え、電話が通じるか確かめる。16年前の震災時は停電し、隣の市に住む両親の安否確認に役立ったのは電源不要の黒電話だった。
 電話線から供給される電気で通話できる電話機は、ごく一部。ファクス兼用など多機能タイプは、ほとんどが停電時に使用不能になる。ここ10年ほどで普及したIP電話も電気が必要のため使えない。
 携帯電話は電話線がない分、固定電話より災害に強いはずだが、NTTドコモの担当者は「基地局が無事で通話可能でも、通話量が増えれば、それに応じた規制をかける」。災害時優先電話になる公衆電話は95年度の約80万台から09年度は約28万台にまで減り、長蛇の列は必至だ。
 電話が難しい場合に有効なのは、携帯電話のメール。ほかに、NTT東西は災害用伝言ダイヤルの活用を勧める。「171」に電話し、自宅の電話番号を入力すれば、30秒間の伝言が録音、確認できる。「web171」はこのインターネット版。パソコンで伝言登録と確認が可能だ。
 携帯電話の「iモード」「EZweb」などでは、「災害用伝言板」が便利。昨年3月には携帯・PHS事業者5社が連携し、1社の伝言板で安否を知りたい人の携帯電話番号を入力すれば、全社の伝言板が検索できるようになった。ただ、普及が進むスマートフォン(多機能携帯電話)には、伝言登録ができない機種がある。
 事前に複数の安否確認手段を把握し、どれを優先して使うか家族と相談して決めておくといい。どの伝言サービスも毎月1、15日や防災週間(8月30日〜9月5日)などに体験利用ができる。


! 阪神大震災から16年を前に、家に帰れない「帰宅困難者」が安全に行動する手立てを考えます。次回は施設の対策や個人でできる備えです。



「帰宅困難 その時、あなたは―― 下」『朝日新聞』11/1/15

歩きやすい靴・小型ラジオ・地図


集客施設、対策はわずか
 不特定多数が訪れる集客施設は、客が大地震で帰宅できなくなった場合を想定して、対策を講じているだろうか。もし、路上に置き去りにされたら、自分の身を守るすべは――。
 東京ディズニーリゾート(千葉県浦安市)の年間来場者数(2009年度)は2582万人。「最後の客が帰るまで安全を守る」と、オリエンタルランド広報部の担当者は言う。従業員は、年間に相当数の防災訓練を積んでおり、帰宅困難者対策もその一つだ。
 繁忙期に帰宅困難となる来場客を約4万8千人と想定。全員が4日目まで園内で過ごせるよう、飲料水などを備蓄している。食堂施設の食料を提供し、劇場型アトラクションの建屋などを宿泊場所として開放する。
 「逃げ出す街から逃げ込める街へ」。そんなコンセプトを掲げる六本木ヒルズ(東京都港区)。運営する森ビルによると、オフィスのサラリーマンや買い物客に加え、周辺から避難してくる帰宅困難者ら5千人分の食料や水、エアベッド、毛布などを備蓄している。
 だが、こうした取り組みは少数派だ。多くの民間企業が非常時の対応の指針となる「事業継続計画(BCP)」を策定するが、商業施設などでの具体的な対策は、首都圏を中心にごくわずかしかない。


身を守るグッズ備えて
 結局、市民一人ひとりが「自分の身は自分で守る」という意識を持たざるを得ない。個人でできる備えを調べてみた。
 まずは勤務先のロッカーに、徒歩帰宅用の歩きやすい靴を置いておく。長距離を歩くのにハイヒールは負担が大きい。
 徒歩帰宅に必要なグッズを集めたセットは、企業の防災関係担当者から好評で、社員用に常備しているケースが多い。事務用品大手・キングジムの「帰宅支援キット」 (税込み6825円)はA4判のファイル型で、本棚にすっきりと収納できる形状がユニーク。保存水から非常用簡易トイレ(便袋)まで、10点が収められている。
 文具大手のコクヨも帰宅支援タイプの非常用品セット(8400-1万7850円)を販売。レインコートや靴擦れ防止シートなど最大16点がそろう=写真。
 これらは職場に置いておくのにはよいが、持ち歩くのには難がある。最低限、バッグに入れておいて役立つのは、小型ラジオと簡単な救急用品だろう。
 小型の地図も必需品。実際に歩くべきルートを調べ、地図として持ち歩くのなら、航空測量大手のパスコがサイト「帰宅支援マップサービス」 (https:/www.kitakumap.com/)を展開している。利用料として月額210円、地図の印字に315円かかるが、自分だけの帰宅支援マップが手軽に作製できる。
 ナビ機能がついた携帯電話は通話用だけでなく、帰宅ルートを検索したり、交通機関の運行状況などを調べたりするのに便利だ。ただし、電源の消耗が早いスマートフォンなどは電源対策が必要。予備の電池パックをバッグに入れておくと心強い。
(この連載は角谷陽子、宮崎園子、千葉雄高が担当しました)