「「手前みそ」復権」『朝日新聞』11/2/3

 自分で味噌を仕込むというのが、復権しつつあるという話。確かに面白そうではある。ポリ袋でできるなら、場所も取らないしな。近代都市を維持するための流通の標準化という重しが外れてきたということでもあるのだろうな。

 自分で作れば、材料がわかって安心、さらに発酵食品への興味も重なって、「手前みそ」が復権している。寒仕込みの伝統にならって開く教室には若い世代が集まり、細々と残る糀屋さんに、指南役の声がかかる。気軽に、少しずつ、仕込むのがいま流だ。(長沢美津子)


安心と好奇心 糀店が指南
 神奈川県藤沢市のエコ雑貨店「エコモ」では、定期的にみそ講座を開く。「自分でできるなら」という新たな層を引きつける。1月の週末に集まったのは12組。夫婦で参加した女性(35)は「妊娠中で、安心できる食べ物に気持ちが向く。食卓に二人で作ったものが並ぶのも楽しみ」。
 車座になって、大鍋で煮た大豆を各自が素手でつぶしていく。米、玄米、麦など好きな椛を選ぶ。講師の碇哲也さん(31)は「今日一緒に作っても、できあがるとみんな違う味になる。違うけど、どれもうまい。力ビが生えても怖くないし、配合は変えていい。一度作ればわかります」。
 碇さんは東京都町田市の「井上糀店」で働いて4年、「音楽やサーフィンと同じ感覚で、みそ作りを楽しむ輪ができた」。店で販売する材料セットは5キロ分がたる代込みで約4千円。大豆は山形など国産で、大豆1に米椛2という甘めの配合だ。 「若い人が高級なみそを買うのは難しくても、同じ材料の手作りなら、無理なくすすめられます」
 かつては当たり前だった「手前みそ」。家庭内で途切れた伝承が、ネット上でつながる。
 静岡市の「鈴木こうじ店」では、ホームページで各地の名物みそのレシピを公開、質問に答えるほか、動画投稿サイトで仕込み方を紹介する。再生回数は3ヵ月で3千回に迫る。
 店主の鈴木通生さん(52)は、「海外の日本人から問い合わせが来たり、自分のこだわりの米で糀を作つてほしいと頼まれたり」とニーズの多様さに驚く。客の要望で、国産有機栽培の生産者も探した。「昨年は猛暑でみその色が濃くなったという声が多かったですね」
 同業者の集まりでは、廃業の話ばかり。鈴木さんの店には長男(26)が帰ってきた。


ポリ袋 気軽に少量仕込み
 「パンやお菓子の手作りから、より身近なものに意識が向いているのでは。床下や樽のない暮らしでも、工夫次第です」と、本紙生活面「料理メモ」の筆者で料理研究家の石黒弥生さん。2年前から、食品用のジッパーつきポリ袋でみそを仕込む。
 「袋で少量ずつなら扱いやすく、保存の場所もとりません」
 スーパーで手に入る材料で試すなら、大豆1袋200グラムと糀200グラムを用意。圧力鍋にひと晩水に浸した大豆とかぶる量の水を入れて火にかけ、煮たったらアクをよく取る。鍋に対して適量かを確認し、目安は15分加圧して、火を止めて20分。指で楽につぶれる状態にする。「普通の鍋ならコトコト3-5時間です」
 煮汁と豆を分け、豆はボウルに移してポテトマッシャーでつぶす。糀は手でよくほぐし、塩90グラムと合わせて豆と混ぜる。硬さは団子にしてひび割れなければ大丈夫。煮汁で調節をする。新品のポリ袋に詰め、雑菌予防の塩を表面に6-10グラムふったら、空気を抜いてジッパーをしめる。食品の保存棚などに置いて、あとは待つだけ。
「袋が透明なので、熟成で色が濃くなっていく経過が目に見える。手に持つと、生きものを育てているみたいです」
 発酵によるガスが出て袋がふくらんだら空気を抜き、2-3ヵ月後には「天地返し」のつもりで、袋をもんで中身を混ぜる。半年を目安に食べ始めても、長く熟成させても、すべて自分の好みでいい。