民生委員の問題

 昨年の12月が3年に一度の改選だったそうで、関連した記事がいくつか出ている。民生委員のなり手が見つからなく、高齢化が進んでいる状況が紹介されている。特に都市部は厳しいようだ。紹介されている実際の仕事を見ても、なかなか大変そうだ。あと、オートロックのマンションは、管理委員会か管理会社が民生委員を出すべき。
 そもそも、高度成長期の人口の移動と居住形態の変化で、このような制度が維持しにくい状況にあるのだろうな。無給のボランティアで、かつさまざまな複雑な職務を行わなければならないという状況では、なかなか自発的にやろうって人は多くならないだろうな。もっと職務を細分化するか、専門職化するか。少なくとも、現状では退職した人間でなければ、携わるのは難しいだろうし。
 Wikipewdiaを見ると、現在の制度の前身である方面委員などへのリンクがある。もともとは、やはり名誉職で、地域のリーダーを福祉制度に取り込む目的でつくられた制度で、地域のまとまりを前提にしてつくられたものなのだろう。ドイツのエルバーフェルト・システムというのを参考につくられた制度だそうで。制度の改革をもくろむとしたら、制度と社会システムの関係を追及する必要があるだろうな。

老いる民生委員」『朝日新聞』10/12/5

 全国に約23万人いる民生委員が今月、3年に一度の改選を迎えた。住民の悩みに耳を傾け、行政など必要な機関に橋渡しをする地域の「見守り」役の存在は、夏に相次いだ「不明高齢者問題」でもクローズアップされた。だが、なり手不足などによる高齢化で「老老見守り」が進み、都市部では見守り自体も難しくなっている。(佐藤恵子)


82歳 担当90世帯 務めて12年 後継者なし
 築30年を超える団地に冷たい北風が吹きつける。長野市内で約90世帯を担当する民生委員の花岡昭三さん(82)は、言葉に障害がある70代男性の部屋を訪ねた。
 「元気かー」。声をかけると、テレビを見ていた男性は「うーあー」とうめくように応じる。いつもと変わらない様子を確認して、玄関前で倒れていた自転車を起こした。翌朝も同じ部屋に向かう。前日にヘルパーが玄関前に出しておいたごみ袋を収集場へ。袋が出ていない日が続いたら、部屋をのぞく。
 団地には子育て世帯から独居高齢者まで幅広い世代が暮らし、生活保護の受給者や障害者もいる。部屋の郵便受けに新聞がたまっていないか、部屋の明かりがつけっぱなしになっていないか、なにか困りごとを抱えている人はいないか――。民生委員になって12年。地域の行事など手帳に書き込むような活動は月に十数日だが、さりげない、地道な見守りは毎日のことだ。
 花岡さんは、担当世帯の中で4番目の高齢者だ。国の基準では、民生委員は「原則として75歳未満」とされているが、後継者が見つからない場合は「例外」も認められる。「棺おけに足を突っ込んだようなもんだから次の人に任せたいんだが」。改選のたびに適任と思う何人かに頼んではみるが、「仕事が忙しい」「向いていない」と断られる。今回も後継者は見つからず、再任が決まった。長野県内にいる80代の民生委員は2人。花岡さんはその一人だ。
 「ようく話を聞けば、相手の悩みはわかる」。民生委員の存在は地域に欠かせないという。「昔と違って、今は家族形態も福祉制度も複雑。世話焼きがいなくなったら困ったことが起きるだろうな」


都会の見守りマンションも壁
 川崎市幸区で17年間、民生委員を務める女性(68)の見守りの対象は約500世帯だ。担当地域に6年ほど前、合わせて約180世帯が入居するマンション2棟が完成し、世帯数が一気に増えた。市の定めた民生委員の配置基準「220-440世帯に1人」を超えるが、「どうせなり手は見つからない」と、増員はあきらめている。
 川崎市は2008年度末の時点で、定員に対する委員の割合が全国で最も低い87.4%だった。10年前からは6ポイント下かっている。市内各地でマンションが建ち、市は05年から15年までに人口が14万5千人増えると試算している。だが、働き盛りの住民が多いうえ、民生委員の推薦役となる町内会を結成できていないマンションも少なくない。
 人手不足に加えて深刻なのは、マンションならではの見守りの難しさだ。1階玄関のオートロックに阻まれ、住民に会うことが難しい。
 「きっと若い人が多いから、困っている人は少ないとは思うけれど……」。民生委員の女性は言う。しかも、自治体は個人情報の流出を心配して住民情報の提供を十分にはしてくれない。「行政は私たちに見守りを頼むのに情報は出さない。何か起きれば世間から責められるのは私だちなのに」と話す。
 《住民から民生委員を選び、任期は1期3年までとする》。名古屋市千種区のある自洽会の規約には、そう記されている。敬遠されがちな委員の空席を避けるためのルールで、住民たちは3年ごとに輪番で委員を務めてきた。
 だが、30年に及ぶ民生委員経験がある同区の70代の男性は疑問を感じている。「3年だけ我慢すればいいや」と考え、活動に消極的な委員もいた。「定年」を迎えて今回の改選で退任したが、思いは変わらない。「長く続けるからこそ、地域に自分を知ってもらい、問題を把握できる」


なり手不足解消模索
 なり手不足を受け、国は07年に年齢基準の緩和を自治体に通知し、「新任は65歳未満、再任は75歳未満」との原則を「新任も再任も75歳未満」に変えた。多くの自治体が通知に沿って選任したことで、高齢化が進んだ。
 各地では、委員確保の模索が続いている。沖縄市は今回の改選から公募制も採用した。市の担当者は「従来の町内会などによる推薦では見つがらなかった人材を発掘するため」とねらいを説明する。永のホームページや広報紙に募集告知を掲載したところ、十数人から問い合わせがあり、うち5人が選ばれた。「地域に貢献したい」などの応募理由だったという。ただ、まだ定数187人に40人足りない状態だ。
 高知市は昨年度末、退職予定の市職員や学校教職員を対象に退職説明会などで欠員数や活動を訴え、委員になるよう呼びかけた。それでも定数745人のうち41入が欠員のままだ。
 東京都(1万585人の定数に対して624人が不足)は、民生委員の負担を軽減することで短期間で辞めてしまう人を減らし、定数確保につなけようと考えた。委員のサポート役として、知事が約300人に協力員を委嘱。うち3分の1が民生委員の経験者だ。声かけや見守りだけでなく、配り物の手伝いも行う。
 民生委員が一人で悩みを抱え込まないよう、地域の委員や自治体職員が集まる月1回の定例協議会で、各自が体験した問題を基にみんなで解決策を検討する取り組みも広がっている。


「重い役割、増す負担感…:敬遠される?民生委員」『熊日新聞』11/1/7

高齢者の所在不明問題も影響:担い手不足常に欠員:熊本市


 相次ぐ高齢者の孤独死や貧困…。地域で支える民生委員の役割はますます重要になっているが、一方で全国的に問題になっているのが担い手不足だ。県内最多の約1400人が活動する熊本市でも恒常的に欠員が発生している。委員からは「負担感は増すばかりで、人材確保が難しい」との声が上がっている。


 「ことし最後の訪問。何かあったら連絡してくださいね」。昨年末、同市桜本東校区の民生委員竹山君恵さん言)は一人暮らしの女性(80)宅を訪れ、玄関先で声を掛けた。


情報把握は困難
 住宅地が広がる同校区。竹山さんは「昔からの。縁側の付き合いができる家もあるが、集合住宅は人の出入りも多い。全世帯の情報を把握するのは困難」と説明する。
 ほかの民生委員も「自治会など地域と交わりを持たない人が増え情報がない」「オートロックのマンションでは会うことすらできない」と現状を訴え、「玄関が近い集合住宅では金銭面や身内の問題などの話ができず、民生委員が訪れていることを知られたくない人もいる」と話す。一方、寄せられる相談については、「家族内や住民間のトラブル相談が増えている」と、10年以上民生委員を務め、市営楠団地を担当する中西宣卓さん(74)。


使命感で続ける
 昨年12月1目には、全国一斉に3年の任期が更新されたが、全国で約23万4千人の定数に対して欠員は約5400人。充足率は約97.7%だった。
 熊本市は1416人の定数に対して66人の欠員で、充足率は3年前の更新時より2.5ポイント減少し95.3%。男女比は2回とも女性が7割超。平均年齢は62.7歳と前回より約2.3歳上かっている。
 県内の同市以外の44市町村では、八代市など35市町村が欠員なし。全体でも2729人の定数に対して30人の欠員で充足率は前回の99.4%に比べ0.5ポイント減少したものの98.9%となっている。
 しかし、数字以上に民生委員のなり手探しは困難なようだ。昨年12月に熊本市民生委員・児童委員協議会の会長に就任した西原校区の千田新一さん(73)は「孤独死などが報道される度に民生委員にスポットが当たる。責任の重大さが際立ち、進んでなってくれる方は少ない。後任が見つからず、使命感から何年も続けている人もいる」と話す。
 仕事をする女性が増え適任者を見つけづらくなったことや、適任者がいても親の介護に追われているなどのケースも多い。さらに今回の更新時には、全国で高齢者の所在不明問題が浮上。市や民生委員らによると、地域の候補者を選定する夏の時期に一連の騒動が連日報道され、「責任を負いきれない」と敬遠される傾向が強まったという。


活動の啓発必要
 市地域保健福祉課は「民生委員のなり手は人口流動が激しい地区と、地域コミュニティーが残る地区で差がある」と分析。宗良治課長は「地域と行政の橋渡し役を担う重要な職務。ただ、どういう役割を果たしているのか知らない市民も多く、まずは活動を啓発することが重要」と話す。
 一方、民生委員からは「負担感や責任の軽減」を求める声が根強い。千田さんは「活動がスムーズにいくよう、地域全体や企業などとの連携をはかっていかなければならない」と力を込める。(岩崎健示)


「民生委員役割↑なり手↓:九州・沖縄・山口で800人超不足」『朝日新聞』10/12/14

 今月、3年に一度の改選を迎えた民生委員は都市部を中心になり手不足が多発している。九州・沖縄・山口も例外ではなく、12月1日現在で872人が不足。一人暮らしの高齢者が増え、児童虐待問題なども相次ぐ中、その役割は増しており、制度存続のための抜本改革を求める声も出ている。(山下知子、山根久美子)


虐待・独居…増す仕事
 「民生委員の仕事はどんどん増えている。欠員になっている他の地区もカバーするのは本当にしんどい」
 11月末で民生委員を退任した北九州市小倉南区の小林勤さん(77)はそう語る。1979年以来31年間、民生委員として地域を見守ってきた。
 就任当初は経済的に苦しい人の相談がほとんどだった。やがて、児童虐待や一人暮らしの高齢者など、ほかの理由で目を配る人が増えた。
 家庭を訪問する以外にも、洗濯物を干しているか、電気メーターが長期間とまっていないか、新聞や飲料品の配達を受け取っているかなどをチェックした。「子どもが大声で泣いている。児童虐待じゃないか」といった電話が深夜にかかってくることもしょっちゅうだった。
 「私はまだいい方。マンションや団地が多い地区や、人の入れ替わりが激しいところは大変」という。訪問してもかかわりを嫌がったり、つっけんどんな態度を取ったりする人も多い。高齢者の名簿なども、個人情報保護法の影響で市からはもらえない。
 だが、孤独死や高齢者の所在不明問題などが明らかになるたびに、民生委員の仕事が注目される。「なり手は減る一方だろうが重要な役目。引き受けられる人は本当にやってほしい」と願っている。


近所づきあいの薄れ原因?
 九州・沖縄・山口の各県や政令指定都市中核市の中では、民生委員の不足は沖縄県の324人が際立って多かった。定員に対する充足率も86%にとどまっている。「近所付き合いが薄れたことや、民生委員がボランティアであるためだろう」と同県。
 ただ、それは全国共通の悩みだ。全国民生委員児童委員連合会は「民生委員は無償のため、時間的、経済的に余裕がある人しかできない事情もある。なり手不足は一つの要因で語れるものではないが、県民所得が低いといわれる沖縄ではそういった事情も考えられる」と分析する。
 沖縄県の充足率は前回の改選後、最終的に94%ほどまで改善したという。同県は今後も地域からなり手を推薦してもらうよう働きかける。
 一方、大分県の人手不足は中核市大分市と合わせても10人と少ない。「地元自治会と自治体の連携が強い。民生委員の仕事に対する理解も進んでいる。民生委員同士の横のつながりも強いと思う」と県の担当者は言う。
 福岡県内では、政令指定都市中核市合わせた県内全域で194人が不足している。66人が不足している福岡市は今回の改選に備え、民生委員の仕事や役割を書いたチラシを町内会長に配り、いっそうの協力を呼びかけた。


「報酬を」制度改革求める声
 年々重要性の増す民生委員の仕事だが、自治体の担当職員からは「制度を変えないと、これから先はもたない」と悲鳴の声も上かっている。
 民生委員制度ができたのは1948年。当初は経済的困窮者への貸し付けや生活保護への橋渡しが主な業務だったが、時代とともにニーズは多様化した。シルバー手帳や敬老金の配布、赤ちゃんのいる家庭の訪問事業をしている民生委員もいる。
 民生委員法により給与はない。ある自治体の職員は「社会状況は変わっている。負担も大きく、せめて報酬を渡せれば良いと思う」と話す。民生委員側からも「少額でいいから給料を支給しないと人が集まらない」という声が上がっているという。
 民生委員は地域の自治会長らからなる民生委員推薦会が推薦するが、自治会加入率自体が低迷している。高齢化も進む。北九州市の場合、改選後の平均年齢は62.2歳。同市職員は「ボランティア的な仕事なので、自らの仕事を引退した人が引き受けている実態がある」と言う。
 全国民生委員児童委員連合会副会長も務める福岡市民生委員児童委員協議会の藤村文彬会長(72)は「民生委員を辞める時には、『やってよかった』という声が圧倒的。大変さだけではなく、そういう声が世間に伝わっていけばうれしい」と話している。