「記者有論:城ブーム:戦国だけでなく現代も映す:立川支局長(前名古屋報道センター次長)斉藤勝寿」『朝日新聞』10/10/13

 面白そうな連載だけど、有料。しかも、なんか高い。連載全部パッケージで200-300円くらいだろう。文庫が普通に500円なんだし。いや、相応の事情があるんだろうけど。
 まあ、城それぞれにいろいろなドラマがあるんだろうな。個人的には、熊本城の櫓が意外と残っているのが逆に不思議だったり。軍用地になっていた時代はどのように使われていたのだろうか。そして、そろそろコンクリの復元天主が文化財になろうとしている時代の流れ。

 今や空前の武将ブーム、城ブーム である。「歴女」(歴史・武将好きの女性)は流行語になり、各地の城は客足を伸ばしているようだ。織田信長豊臣秀吉ら戦国武将の事績に思いをはせ、歴史ロマンにひたれるのが城の大きな魅力だろう。
 「城の現代史」という連載で、世界遺産の姫路城から戦後に復元された城まで、城をめぐる物語を取材してきた(名古屋本社版夕刊のみ、http://www.asahi.com/travel/castle/)。明治維新で無用となった城や城跡がなぜ残り、どうして復元されたか。そこに近現代史の思いがけないドラマがある。
 例えば長野県の松本城と愛知県の犬山城。江戸時代かそれ以前に建てられて今も残る「現存12天守」に数えられ、国内で四つしかない国宝の城だ(他は姫路、彦根)。松本城の5層天守閣は維新後に廃城となって競売に付される。235両余で落札されたが、地元有力者の尽力で買い戻され、破却を免れた。大山城天守閣は大きすぎて買い手がつかずに残る。だが、1891年の濃尾大地震で大きな被害を受けた。取り壊しやむなしとされたが、旧家臣団などが修理に乗り出し、保存された。
 城の現代史に大きなかげを落としているのは第2次世界大戦だ。城に「いくさ」は付きものとは言え、広島、岡山、和歌山城など、貴重な城の多くが空襲で焼失した。城郭建築の国宝第1号として国内最大を誇った名古屋城も、シンボルの金シャチとともに焼け落ちている。
 戦災で失われた城は、戦後復興と高度経済成長の昭和30年代に復元ブームがおこる。「地域のシンボル」の復活に目を向ける余裕ができたからだろう。ただ、それらは焼失を意識してか「不燃」の鉄筋コンクリート製となった。
 各地の自治体が史実そっちのけで天守閣を建てたがったのは、1980年代後半からのバブル経済で好景気にねいたころだ。一例は岐阜県大垣市の墨俣一夜城。秀吉がつくったという話には疑いがあり、つくっても「とりで」のようなものと考えられているが、完成したのは金シャチを冠した4層の大天守閣だった。
 最近の復元は木造が目立つ。本物ブームの反映だろう。取り壊された天守閣を往時と同じように木造で建て直した大洲城愛媛県)は、将来は重要文化財にするねらいがある。
 城は町おこしにも一役買うようになった。滋賀県彦根城では、ゆるキャラひこにゃん」が人気を博している。同じ滋賀県長浜市にある小谷城は、浅井家3姉妹の末っ子を主人公にした来年の大河ドラマの舞台となる。山城の小谷城は、信長の攻撃で落ちた後は普通の山に戻った。地元の人たちがひっそりと守ってきた城跡が、脚光を浴びている。
 城から連想できるのは戦国武将だけではない。現代史、とりわけ戦後日本の姿も見えてくる。