NHKスペシャル取材班・主婦と生活社ライフ・プラス編集部編『MEGAQUAKE:巨大地震』

NHKスペシャル MEGAQUAKE巨大地震―あなたの大切な人を守り抜くために!

NHKスペシャル MEGAQUAKE巨大地震―あなたの大切な人を守り抜くために!

 NHKスペシャルで放映された巨大地震の番組を再構成し、取材した人のコメントをつけたもの。ずいぶんボリュームが小さいような感じだが、啓発を主と考えると、これくらいコンパクトで安価であるというのは悪いことではないのかな。個人的には、地球大紀行とかあの系列の一回ごとに本にまとまるくらいのを期待するのだが。
 しかし、本書で予測されているようなことが、結局、この番組で予想していたような南海・東南海地震ではなく、東北で起こってしまったというのが皮肉だな。あっちであんな巨大地震が起きるなんて考えてもいなかった。
 内容は第一章が巨大地震で何が起こるかと題して、巨大地震のシミュレーションを行っている。シアトル周辺で繰り返されてきた巨大地震、アスペリティの解説、巨大地震による長周期地震波、液状化津波リスボン地震を題材に忘却されていく惨禍。シアトル周辺だけ、地震空白域があるというのにはゾッとした。
 第二章は寺田寅彦の「天災と国防」を全文掲載。「天災は忘れたころにやってくる」という警句のもとになったという。
 第三章は、阪神大震災の時に何が起きたかを再構成している。木造住宅の倒壊と凶器となる家具。海底堆積物と河川堆積物が交錯し、異なる揺れのパターンが引き起こした高速道路の崩壊。西宮市仁川地区の地すべり。仙台周辺では、造成地の盛り土が崩壊しているし、高度成長期にいい加減に作られた造成地をチェックしなおすことは急務だと思う。
 熊本市内でも基幹病院が、地盤が弱い南部に展開していて、熊本で地震が起きたときには軒並み機能停止するんじゃないかと懸念している。他の都市でも、多かれ少なかれ、水際の地盤が弱いところに都市が展開しているし、心配な問題。しかし、永田町あたりにも、元は溜池があったとなると、首都直下型地震があったときには怖ろしいな。
 津波の回でシミュレートしていた、大坂を津波が襲い、タンカーなどが炎上、それが市街地に引火するというシナリオも、気仙沼なんかを見ていると、かなりリアリティーを持って迫ってくるものがある。


 以下、メモ:

仙台市の郊外。東北大学・今村文彦教授の研究チームは、海岸から4キロ近くも離れた水田の地下から、あるはずのない海の砂を発見した。分析の結果、この砂は約1000年前に起きた日本最大級の津波の痕跡で、1000年ごとに繰り返し起きていることがわかった。つまり、いつ次の大津波が来てもおかしくはない。この津波を起こす地震は、本州東方のプレート境界。最大ではマグニチュード9近くのメガクエイクになる可能性もある。p.18

三陸海岸は、過去何度も大津波に襲われている。岩手県宮古市田老地区の海岸には、津波に備えて高さ10メートルの防波堤が築かれている。しかし、1896年の明治三陸津波が再び起きたと仮定し、シミュレーションを行ったところ、上の写真のように、この防波堤を軽々と乗り越えてしまうという結果が出た。p.18

 「マグニチュード9近くのメガクエイクになる可能性もある」どころか、実際に9.0の地震が来ちゃったわけで…

 金森氏は、当時入手可能だったデータから、巨大地震には起きやすいところがあると考えた。しかし、地震学はたかだか100年足らずのデータしかない若い学問であり、1000年単位で考えれば、起きないと考えられていたところでも起きるかもしれない。それを突きつけたのが、2004年のスマトラ島沖地震だった。
 金森氏は「過去の地震を調べることも大切だが、地震は常に想定外に起きるものだと考えて備えるしかない」と語った。驚く宮川D(ディレクター)に、金森氏は続けた。「過去の地震だけを想定していたのでは、必ず被害は甚大になる。高層ビルや原発、新幹線なども、作らずに済むならそのほうがいいに決まっている。しかし、経済活動のために必要だというのなら、どこまでコストをかけるかは、社会の判断になる。地震に備える技術はすでに発達しているのだから」
 地震学に半生を捧げた「神様」の結論は重い。「あの言葉が今も一番心に残っています。先生の実感を少しでも反映したいという思いで、番組を作りました」(宮川D)p.27

 カリフォルニア大学の金森博雄名誉教授の指摘。「過去の地震だけを想定」するどころか、過去の地震の想定さえまともにされていなかった日本の原発についてどういえばいいのやら。

 1985年のメキシコ地震。首都・メキシコシティから震源までの距離は400キロもあったが、古い小さな建物は無事なのに、なぜか特定の高層ビルだけが狙われたように倒壊した。大都市を襲う長周期地震動の脅威が初めて姿を現したのだ。急速に膨れ上がる人口を抱えるため、水辺を次々と埋め立て、高層・過密な都市へと変貌させたメキシコシティの歴史は、東京と驚くほど重なり合う。
 「これだけリスクの高い場所に都市を築いた人間のすごさ、恐ろしさを肌身に感じました。地震国が、地震などほとんどないニューヨークのような摩天楼を追い求め、危険な場所にすべてを一極集中させることが、本当に正しいのか。長周期地震動は、それを問うてます」p.39

 まったくその通りだと思うけどね…

 第4回放送は「死の波が都市を襲う TSUNAMI 未来の被災者たちへ」。津波の恐怖といえば、2004年のスマトラ島沖地震に伴うインド洋大津波を思い出す。三村忠史Dは、現地を訪れてみて驚いた。
「住民がふだん海の近くに住んでいるという意識を持たないであろう市街地にまで、津波が来ていたのです」(三村D、以下同)
 番組作りにあたって協力を仰いだ、東北大学の今村文彦教授。津波研究の世界的権威だ。1983年、日本海中部地震の現地調査に当ったことをきっかけに津波の研究を始め、2年がかりで遠地津波の警報に役立つ予測式を作り上げた。警報発令は大幅に短縮され、世界中で活用されている。
 今村氏はいま、都市における津波被害の高精細なシミュレーションに取り組んでいる。三村Dは耕地で地形データを収集する作業に同行。さらに大阪など、津波被害が懸念されている大都市も訪ねてみた。
「浸水が指摘されている場所に行ってみると、海を意識することがまったくないロケーション。スマトラと同じなのです」
 今村氏は、過去の被害は漁業者など、海とともに生活していた人々を襲っていたが、都市を襲う津波はそうではない、という。
 三村Dは恐怖感を抱いた。「研究者は努力を重ねて想定を広げ、警報システムや避難マップなどを整備し、警鐘を鳴らしています。しかし、海が近くにあるという意識がない住民は、津波警報が迅速に発令されても、逃げるという発想に行きつけるのか」p.45

 うーむ。確かに…