デニス・フリン『グローバル化と銀』

グローバル化と銀 (YAMAKAWA LECTURES)

グローバル化と銀 (YAMAKAWA LECTURES)

 うーん。よく分からん。16-17世紀の世界経済の中での銀の流通の役割を議論している学者で、本書は日本での講演と論文二本を翻訳したもの。なのだが、基本的にミクロ経済学のモデルを利用して議論しているので、そのあたりの知識がない私には、著者の主張を評価しきれない。そのうち読み返す。
 1571年のスペインのマニラ植民地の建設とマニラガレオンの往来をもってグローバル化が始まるという主張は納得できないものが。著者の主張には一理あると思うが、やはり1492年、ユーラシア大陸アメリカ大陸の人間の接触をもってグローバル化が始まると理解する方が素直な理解だと思うのだが。あと、中国の通貨制度の紙幣から銀への移行と、それによる銀価格の上昇が世界経済の駆動源であったという指摘は興味深い。
 あと、現在の世界への展開の上で、化石燃料を利用した蒸気機関の出現という「動力革命」を、次元の変化として重視すべきだと思う。経済学を利用した近代経済史では、割とそのあたりシームレスに議論しがちだけど、そこに大きなアクセントがあるのではないだろうか。統計的には見えにくいとしても、それによって人類がかつてない大きなエネルギーをコンパクトに利用できるようになったというのは、生態的に見て大きな変化だと思う。そして、それがなんで18世紀のイングランドで起きたのか、そして普及したのか。私自身、ヨーロッパ中心主義的な歴史観は徹底的に排除したいが、そこの変革の大きさは無視できないと思う。逆にいえば、それ以前のヨーロッパは、アジアの諸文明と横並びかそれ以下だったという指摘と矛盾しないし。


 以下、メモ:

 このフリンの主張に対して、ジェフリー・ウィリアムソンとケビン・オクールが強烈な反駁を加えている。彼らによれば、グローバル化1820年代に環大西洋世界、西ヨーロッパと北米(アメリカ合衆国)とのあいだで物価水準が一つに収斂する過程ではじめて出現した歴史的現象であった。彼らの研究は、計量経済学の理論と詳細なデータを駆使した計量経済史的研究の代表的なものであり、価格収斂理論(price convergence theory)に支えられた精緻な研究は、非常に説得力があり、欧米の学界で経済史家を中心に多くの支持を集めている。p.8

 後で調べる。普通に「グローバル化の始まり」と考えると、もっと前に始まるのではないかと思うが。価格の収斂は、結果であって、始まりではないと思う。まあ、このあたりの時代から交通機関蒸気機関が普及していくわけで、現在に直接つながるグローバル化、というか長距離輸送機関の機械化の画期とは言えるかもしれないが。

 ポメランツは、ユーラシア大陸の発展した地域はすべて、産業革命に先立つ時期、自然および人間の手になる資源の枯渇という点で重大な危機に直面していたと主張する。そのような地域では既存の生活水準をずっと維持しうるとはいえなかったし、まして新しい産業化の時代に到達するなど思いもよらないだろう。ポメランツに拠れば、いくつかのヨーロッパの国(とくにイギリス)が重要な利点を享受したが、その一つはアメリカの広大な天然資源を手に入れたということだ。彼の著作では、このヨーロッパの優位性を示す量的な推計が数多く提示されている。アジアの国々はそうした同様の天然資源を得ることはできなかった。ポメランツの仮説が現在および将来に提起される疑義に耐えうるものか否かは、これから明らかになるであろう。しかしながら、彼の優れた研究と大胆なスタンスにより、産業革命に関する今後の議論が必然的にグローバルな視点に基づくものになることは疑いの余地がない。今後、対立する仮説はすべて、地球規模での分析をおこなわなければならない。p.57-8

→Kenneth Pomeranz, The Great Divergence: China,Europe,and the Making of Modern World Economy, Princeton:Princeton University Press, 2000.
 世界的に資源の枯渇に直面していたのは確かだろうな。ヨーロッパがアメリカ大陸の資源を利用できたことは確かに優位ではあったと思う。ただ、真の突破点は割と小さいところからはじまったのではないかと思う。蒸気機関の理論的背景がいかにして発展し、さらに蒸気機関の開発に投資し、できた蒸気機関を誰が買ったのか。誰がからんだのか。そこが重要なように思う。