市村祐一『江戸の情報力:ウェブ化と知の流通』

 うーん、「情報」の名のもとにさまざまな文化現象をのんべんだらりと並べただけの本だな。情報ってのは、なんらかの目的を持って流通・蓄積されるものなんだし、その背景となる思想や伝統まで考慮しないと、まともな「情報の歴史」にはならないと思う。これでは、ただこんな文化現象がありましたって列挙しただけ。しかも、メチエには珍しく、索引が付いていないから、カタログ的にも使えないという。
 あと、安易に「日本的情報伝達」とか「日本人は横並び志向」とか書くけど、それは何が根拠で言えるのか。日本における情報流通の特性を描き出すとしたら、少なくとも他地域あるいは他時代との比較ではないか。さまざまな人的ネットワークを介した情報の流通や個人での情報蓄積などは、洋の東西を問わずどこでも行われたこと。同じような時代に、中国でも西洋でも出版革命がある。ほぼ同時代に、ヨーロッパでも行政資料の国家による蓄積が始まっている。何が「日本独自」なのかなど、一生かかってもたどり着けない難しい問題というのを、もっと肝に銘じるべき。