S・ビースティー画、R・プラット文『輪切り図鑑:ヨーロッパの城:中世の人々はどのように暮し、どのように敵と戦ったか』

輪切り図鑑 ヨーロッパの城―中世の人々はどのように暮し,どのように敵と戦ったか

輪切り図鑑 ヨーロッパの城―中世の人々はどのように暮し,どのように敵と戦ったか

 中世の城での生活や戦がどんなだったかを、細かく書き込んだ絵で表現している本。なかなかおもしろい。まあ、圧縮しすぎなような気がするが、そこは仕方がないだろう。スパイが紛れ込んでいて、絵の隅っこでちょろちょろしているのが面白い。いろいろと暗躍している。あと、結構エグい場面も多いな。戦死者とか処刑とか事故とか。小さい絵だけにグロさはないが。
 内容は攻城戦や城内で行われるさまざまな生産活動、食事や娯楽、奢侈、さまざまな備品など。中世と言っても1000年も続く長い過程なのだが、ここでは12-13世紀あたりを扱っているようだ。もっと後の時代には、貴族も自前生産よりも市場からの購入に頼るようになるし、生産活動も貸して賃貸料を取るというスタイルに変わる。あるいは自分でやっても、もっと資本主義的な市場向け生産になっていく。

 裕福な人々は、スパイス入りの料理を楽しんだが、コックがくさりかけた材料の味をごまかすためにスパイスを使うことはなかった。実際には、食べ物はきわめて新鮮な場合が多かった。食事にはスパイスを利かせてあったが、それは。それが流行の料理法だったからである。スパイスは非常に高価で、スパイス入りの食べ物は富とぜいたくのしるしであった。p.20

と明確に指摘しているのが評価できる。スパイスの利用は衒示的消費と考えるべき。衒示的消費のいっかんとして、当時きわめて希少だった砂糖が料理に大量に投入された。中世の料理書にはそのようなレシピが書かれているそうだ(→ブリュノ・ロリウー『中世ヨーロッパ食の生活史』)。


 あと気になったのは最初のページ。石の城壁で防備されている集落が、そんなに簡単に陥落しただろうか。城への脱出路も、外を通っているのはおかしくないかと思った。


 値段もリーズナブルだし、たまに楽しむには悪くない本。だが、あまりにでかいので、もてあまし気味だったり。B4判の本って、しまうところにも苦労するんだよな…