内田祥哉『日本の伝統建築の構法:柔軟性と寿命』

日本の伝統建築の構法―柔軟性と寿命

日本の伝統建築の構法―柔軟性と寿命

 日本の伝統建築の入門書かと思ったら、講演と雑誌の連載を本にまとめたものだった。まあ、特に難しいところもなく、さらさらと読める。和風伝統住宅の柔軟性や戦後の伝統木造建築の流れ、文化財の探訪記、コンクリの寿命の話など。
 日本の伝統的な住宅建築が畳をモジュールとし、三尺単位で規格化された結果、部材の転用など間取りの変更をしやすくしたという指摘が興味深い。
 第四章は戦後の木造建築の歴史をたどっている。コンクリ建築が現地で木製の型枠を組んで打つ方法で作られたが、これは実は贅沢なやり方だったという話や1959年の木造建築禁止の決議、建築基準法文化財保護法のはざまで、伝統的な技術による和風建築、特に寺社建築の新築が著しく妨げられた状況とそれからの復活の動き。木造禁止決議については、『美味しんぼ』で取り上げて、学会が反論するようなこともあったが、木造建築が軽視されてきた状況は事実だと思うが。あと、内部に様々なコード類やプラスチックがつかわれる現状では、木造でもコンクリでも、火災に弱いことは変わらないような気がするが。
 第六章では、コンクリの建造物の寿命を中心に、建造物の寿命の話。コンクリ建造物が、意外と寿命が短いという問題。単純にコンクリが劣化するだけではなく、柔軟性に欠ける結果、物理的な寿命以前に、配線や配管などの劣化、間取りの変更がきかないなど社会的な寿命がきてしまう問題。また、文化財として長期的に保存する場合に、どのように修復するかの問題点などを指摘している。コンクリの寿命については、80年代のコンクリの寿命が問題になりだした時期の物が収録されている。