光田憲雄『江戸の大道芸人:庶民社会の共生』

江戸の大道芸人―庶民社会の共生 (つくばね叢書)

江戸の大道芸人―庶民社会の共生 (つくばね叢書)

 伝統的な大道芸を伝承保存しようとしている著者が、江戸時代の大道芸を調べたもの。第一章は、江戸市中にどのような大道芸があったか、第二章は大道芸人の系譜として時代的変遷を、第三章は江戸の変わった大道芸を描く。後半の三章は、個別の芸の考証。南京玉すだれガマの油、反魂丹売りの話。
 第一章の江戸の大道芸の列挙を見ると、大道芸は周縁的な宗教者や乞食、振り売りの商人などとほとんど区別がつかないように感じた。大道芸で人を集め、薬を売る典型的なタイプの大道芸人って、少数派だったのではないだろうか。このあたり、「身分的周縁」といったキーワードと近しいように感じる。純粋に芸を見せるのは、それこそ「砂絵」くらいのものではないだろうか。第三章で紹介される「墓所の幽霊」もおもしろい。造り物の墓石の後に、死人メイクの人が隠れているって、ある意味すごいアイデア
 後半の考証も興味深い。南京玉すだれガマの油も、比較的最近に形成されたらしいとか、曲独楽・歯磨き売りの松井源水と居合・反魂丹売りの松井源左衛門の二つの系統が混同されていたという指摘など。
 自ら記録を遺さず、文書からも追いにくい、大道芸人をきっちりとした輪郭で追うことの難しさ。また、江戸ではさまざまな随筆からある程度追うことができるが、他の土地ではどうか。三都ならともかく、例えば熊本などの城下町、あるいは村落ではどのように存在していたか。実際に調べるとなると難しいだろうなと感じた。


 著者のウェブサイトとブログもあって、伝承・実演活動をやっている。
日本大道芸・大道芸の会
著者のブログ