野口冬人・いさかかつじ『民具の呼ぶ声』

民具の呼ぶ声 (旅行作家文庫 (15))

民具の呼ぶ声 (旅行作家文庫 (15))

  • 作者: 野口冬人,いさかかつじ
  • 出版社/メーカー: 現代旅行研究所
  • 発売日: 2003/03/30
  • メディア: 単行本
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 小川原湖民俗博物館の収蔵品を材料に、さまざまな民具について解説して、イラストをつけている本。青森の博物館なので、主に東北地方の民具が収集されている。この小川原湖民俗博物館って、母体の温泉宿の経営が傾いて、現在は休館状態らしい。もったいない話だ。
 農具、山仕事の道具、照明や食器類など。さらに青森の営林署のOBや三本木の馬車、南部裂織の保存活動をやっている人へのインタビューなど。前輪が回転する三本木の馬車や南部裂織の保存伝承活動が興味深い。また、著者は農家出身で、山歩きで山村の民俗にも詳しいため、そのあたりの解説は非常に精細のある記述となっている。一方で、ラストの漁業や被服関係の記述は、ラストの方でごく簡単になっている。
 著者は1933年生まれだそうだが、実際にこういう「民具」を扱っていた最後の世代に近いのかもな。使ったことのない人間には、よく分からないものだらけ。特に、家畜で引く犂や織機なんかは、教えてもらわないとサッパリ。博物館に行くと、よく見かけるけど、ああいうのを動態で保存するのは難しそうだ。
 最後は息切れしたのか、イラストが少なくなって、誤字が増えているのがなんとも。

 江戸時代、東北地方は飢饉が多く発生していたこともあって、米の増産、新田開発がぐんぐん進められたか、それでも東北地方には毎年のように不作、天災が襲い、飢饉に見舞われてきた。そして、米信仰が高くなれば高くなるほど、人々は飢饉に悩まされた。p.15-6

 東北の太平洋側の新田開発は、江戸への輸出を見込んでのものだったんじゃないかな。地元の食料供給を重視するなら、寒い地方に必ずしも向いたものとは言えない、稲作を重視する必要はなかったのではないかと思う。基本的に、米が高く売れるから、江戸時代には新田開発が推進されたのではなかろうか。
 地元の食料需給に関して言えば、むしろ新田開発をしなかった方が、資源を稲作に取られなくて、良かったのではないだろうか。

 囲炉裏には火を絶やしてはならない。薪(まき)を燃やし、それで飯を炊き、味噌汁を作った。お湯はたえず鉄瓶にわかされ、いつ来客があってもお茶を立てられた。囲炉裏の火の管理は、その家の嫁の役目であった。火を絶やすことは嫁の恥じとされた。p.32

 こういう状況では、家事も手間がかかっただろうな。ただ、農繁期なんかで一家総出で出ている時なんかはどうしていたのだろうか。