福井健策弁護士ロングインタビュー:「スキャン代行」はなぜいけない? (1/3) - 電子書籍情報が満載! eBook USER

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 まあ、法律の問題とすれば、自炊代行はほぼ負けるだろうし、そちらが素直な解釈ではある。それだけなら、ここまで大きな反発は起きなかったんじゃないかと思う。このインタビューのような論調で進めれば。
 問題は著作権の背景となる、著作物の利用の「慣習」の変化。それに対する、特に職業作家の態度の問題が大きいように思う。レスペクトや意欲の問題として主張された著作権延長問題、そして図書へのアクセスを補助する図書館への態度など。著作権法が建前としている「文化の振興」をないがしろにする自己利益優先の態度が、記者会見で露骨に見せられたからではなかろうか。正直、あの記者会見は逆効果だったと思う。特に自炊代行サービスの利用者が多数の書籍を抱えたヘビーユーザーであるわけで。世論を盛り上げるつもりが藪蛇になったんじゃないかと。単なる法的な問題で片付けた方が安全だったのではなかろうか。
 そもそも本が売れなくなった、作家に入る収入が減ったというのが作家側の動く動機のように見える。しかし、書籍が売れなくなったと言っても、その縮小はわりあいゆるやかの様子。むしろ、個々の著作の売り上げの低下は、出版社が発行点数を増やした、供給過剰に問題があるのではないだろうか。そのあたりの問題を検証せずに、読者の利便性を制限する方向で、一気に突き進むことに不信感がある。


 ぶっちゃけ、特定の自炊代行業者と組むか、組合を作らせる。で、それらの業者に対しては著作権を行使しない。代わりに上納させるみたいなシステムを作った方がよくないか。それならコントロールしやすいだろうし。まあ、そうなったら利益配分でもめるんだろうけど。
 あと、「権利者への適正対価の還元の仕組み」がたいがい「むしろ送金手数料の方が高くなってしまってほとんど還元されない」ってのは、著作物の複製の各段階で普通のことなんじゃないかと。電子書籍の作家側の問題として売れた分しかお金が入らなくて、やってられないというのも指摘されている。いままで本を書くごとにまとまった金が入っていたのは、刷った部数に対して一括して印税を払うという、出版社にリスクヘッジをしてもらっていたという事実を直視する必要があると思うけど。そのあたりの現実の対価を直視する必要があるのではないだろうか。


 このインタビューを読んでいておもしろいのは、権利者側にたって法律を運用する福井弁護士自身が、細かく複製の問題を突き詰めると、法文と運用が乖離してしまうってところだと思う。

では個人事業主だとどうか? 例えば弁護士一人一人は、おおむね独立した個人事業主です。それが自分のための資料をコピーするとすれば、基本的には、会社のような別法人ではなく、自分のために複製しているようにも見えます。でも趣味ではなく、仕事の領域。これは「私的複製」に当たるのか?

 これはグレーですね。個人的にはごく規模が小さくて、対外的に使わない資料的な複製であれば、「私的複製」に含めてもいいかな、と考えています。ちょっと身びいきかもしれないですけどね(笑)。もちろん誰であれ、ポスターに他人の著作物を使ってしまうなど、公表を予定しているものに使ってはダメです。あくまで形態・態様によります。

 現実には著作権は、利用者側の慣習とはかけ離れている。そこはもっと重視すべきなんだと思う。