今年印象に残った本2011(一般部門)

 フィクションを除いた全般部門。今年の読了数は245冊、うちラノベ・マンガが98冊。全体の読了数が昨年とぴったり同じというのが、なんとも。ラノベ・マンガの占有率はアップ。9-10月あたりの固め読みが影響しているな。学術書・教養書系統は、秋以降、思いっきり失速した感がある。
 あと、講談社選書メチエの制圧作戦と称して読みはじめたのに、2か月ほどで失速。しかも、読んだ本が全然ランクインしていないという。おもしろかったのだけど、何というかねえ。結局、年初に読んだハードカバーのナマコ本や毛皮本が上位に。
 以下、ランキング:

世界屠畜紀行

世界屠畜紀行

 悩んだ末にこれに。世界各地の家畜を解体する現場を巡った本。生き物を解体して食うって、けっこう大変なんだよな。あと、文庫より単行本の方が断然よいと思う。

感染症と文明――共生への道 (岩波新書)

感染症と文明――共生への道 (岩波新書)

 人間と病原体の関係を生態系として見る本。人間の生態の変化や移動・交流が、あらたな病気をうむ。農耕、定住、牧畜、都市化、大陸間の交通が、どのような流行病をもたらしてきたか。また、抗生物質などによる制圧の不可能性。

  • 8位河田惠昭『津波災害:減災社会を築く』

津波災害――減災社会を築く (岩波新書)

津波災害――減災社会を築く (岩波新書)

 津波の専門家による啓蒙書。まさに専門家の指摘する通りの事態が起き、さらに著者が世界一安全としていた釜石の湾口防波堤すらも破壊された、自然の力の脅威。

  • 7位渡辺音吉・竹島真理『筑後川を道として:日田の木流し、筏流し』

筑後川を道として―日田の木流し、筏流し

筑後川を道として―日田の木流し、筏流し

 昭和30年頃まで、筑後川で材木流しに従事していた人の話を聞き書きしたもの。どこそこで何をしていたというのが具体的に語られるため、水上交通が重要な役割を果たしていた最後の時代を、具体的に知ることができる。私などは、河川改修されまくってのっぺりした空間としてしか認識していないが、川を通じた交通や場所などの感覚があるのが興味深い。

  • 6位畠山剛『炭焼きの二十世紀:書置きとしての歴史から未来へ』

炭焼きの20世紀―書置きとしての歴史から未来へ

炭焼きの20世紀―書置きとしての歴史から未来へ

 こちらも高度成長期以前の社会を知らしめる本。エネルギー革命によって都市におけるエネルギーが電気やガスに転換するまえは、木炭が熱源として盛んに利用されていた。それによって、山地の経済は維持されていた。近代に入って、岩手県は木炭生産の首位となるが、その時代をまとめたもの。

  • 5位高橋繁行『葬祭の日本史』

葬祭の日本史 講談社現代新書

葬祭の日本史 講談社現代新書

 年齢的にも、周りにお葬式が増えてきたし、まあ、立場が立場だけに無縁な最後を迎えそうだから無関心ではいられない葬式。いや、実際、高度成長期に都市周辺に発展した家族墓形式ってのは、時代のあだ花で、持続性がないんじゃないかねえと。次はどのような墓になるのか。樹木葬でいいんだよね、後に残らないほうがいい。
 まあ、お墓に興味をもったのは、昔の集落とか、古い寺の墓地をみると、お墓の形がまったく違うってところからなんだけど。葬儀社の起源や火葬場、三昧聖、仏教音楽など、葬式のさまざまな面を扱っている。

鶴見良行著作集〈9〉ナマコ

鶴見良行著作集〈9〉ナマコ

 鶴見良行によるナマコの流通の歴史を追った本。近代の周縁をめぐるようなそんな本。アジアで消費される自然採集の国際流通品という独特の地位が興味深い。島嶼世界の現場から発信する世界。

  • 3位赤嶺淳『ナマコを歩く:現場から考える生物多様性と文化多様性』

ナマコを歩く―現場から考える生物多様性と文化多様性

ナマコを歩く―現場から考える生物多様性と文化多様性

 東南アジアの漁業から、日本国内でのナマコの流通、ナマコの流通の変化という動きを現場のフィールドワークで明らかにし、そこから東南アジアの海民の生活感覚を析出。そこから、生物多様性や現地の人々の生活をめぐるエコポリティクスの議論へと踏み込んでいる。現地のフィールドワークから始まった問題意識の変化が興味深い。

  • 2位下山晃『毛皮と皮革の文明史:世界フロンティアと掠奪のシステム』

毛皮と皮革の文明史―世界フロンティアと掠奪のシステム

毛皮と皮革の文明史―世界フロンティアと掠奪のシステム

 今年の初めに三冊一気読みした毛皮関係の本から、本書がランクイン。毛皮交易が世界史に果たした重要性。特にシベリア、北米のヨーロッパによる「開発」に果たした役割の大きさ。先住民社会の破壊と奴隷化の歴史。「毛皮を着るなら裸のほうがまし」とか言ってストリップする連中が横行する現在では、このあたりの毛皮の影響力と交易の利益の巨大さはにわかには体感できないな。

チェルノブイリの森 事故後20年の自然誌

チェルノブイリの森 事故後20年の自然誌

 チェルノブイリ放射能汚染の巨大さとそれにもかかわらずそこに出現した「自然公園」に驚いた数日後、よりによって日本で、見なれた数字が問題になるという、得難い、そしてもう体験したくない読書体験をした。ここまで鮮烈な読書体験はなかなか無い。
 東日本大震災は人間の持つ力の小ささを強烈に印象付けたな…


 以下、次点:
野口武彦『幕府歩兵隊:幕末を駆けぬけた兵士集団』 asin:4121016734
永原慶二『富士山宝永大爆発』asin:4087201260
藤山新太郎『手妻のはなし:失われた日本の奇術』 asin:4106036479
安藤邦廣+筑波大学安藤研究室『小屋と倉:干す・仕舞う・守る 木組みのかたち』 asin:4863580630
デビッド・マコーレイ『キャッスル:古城の秘められた歴史をさぐる』asin:4001105241
板坂耀子『江戸の紀行文:泰平の世の旅人たち』asin:4121020936
加藤淳子『下級武士の米日記:桑名・柏崎の仕事と暮らし』 asin:4582855911
小林茂外邦図:帝国日本のアジア地図』asin:4121021193
神田千里『宗教で読む戦国時代』asin:406258459X
ジョン・ハーヴェー『中世の職人:2 建築の世界』asin:4562017929
ジョン・ハーヴェー『中世の職人:1職人の世界』asin:4562017910
武田尚子『「海の道」の三〇〇年:近現代日本の縮図 瀬戸内海』asin:4309624294
榎本渉『僧侶と海商たちの東シナ海asin:4062584689
木方十根『「大学町」出現:近代都市計画の錬金術asin:4309624197
森永貴子『ロシアの拡大と毛皮貿易:16-19世紀シベリア・北太平洋の商人世界』asin:4779113938
西村三郎『毛皮と人間の歴史』asin:4314009306
三戸祐子定刻発車:日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか?』 asin:4101183414