野尻抱介『南極点のピアピア動画』

南極点のピアピア動画 (ハヤカワ文庫JA)

南極点のピアピア動画 (ハヤカワ文庫JA)

 ニコニコ動画初音ミクをモデルとした「ピアピア動画」と「小隅レイ」が普及しまくっている近未来。つーか、5年後ほど? 月に彗星が衝突して、デブリが衛星軌道上に飛びまくっている状況を、共通の背景とする連作短編。
 表題作は彗星が月に衝突し、その放出物が地球軌道を周回、南極点で双極ジェットを放出する。それに乗って、宇宙の底まで飛行しようという話。オープンソースハードウェアにブートストラップ工場、ピアピア技術部と、ものすごくギーク天国なインフラを利用して、宇宙機をでっちあげる話。『沈黙のフライバイ』に収録された「5.大風呂敷と蜘蛛の糸」のような、むりやり宇宙飛行をでっちあげる、野尻抱介お得意の作風。
 二作目は、コンビニの真空殺虫器に適応したカーボンナノチューブのような糸を吐く蜘蛛から、ピアピア動画でのやり取りを通じて、いつの間にか蜘蛛を使った軌道エレベータが出現しているという。ちょっとした「夢の素材」から、いつの間にか世界が変わってしまうという点では、『ふわふわの泉』を思い起こさせるなあと思った。
 で、「歌う潜水艦とピアピア動画」は、潜水艦を使ってクジラとコミュニケーションしつつ、生態を調査していたら、ファーストコンタクトと。
 で、最後の書き下ろし「星間文明とピアピア動画」は、「小隅レイ」をモデルとした探査ロボットと人類の共存。つーか、日本人抵抗感なく受け入れすぎだろw 異星人と接触した情報を世界に広めようとするって話はよくあるけど、異星人そのものが増殖しまくって、それをコンビニ配送でばらまくってのが新しい。あと、なんか実在の人物がいねえか。
 道具立ては、過去作品にもある、いつもの野尻思想って感じだが、「ピアピア動画」と「小隅レイ」と「オープンソースハードウェア」って要素が入って、また新しい味わいの作品になっているな。楽しかった。