- 作者: 朝日崇
- 出版社/メーカー: 出版文化社
- 発売日: 2011/09/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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アーカイブ運営の理論に関して、「廃棄」の問題は避けて通れないようだ。紙背文書やふすま紙文書などを考えると、「評価」「選別」は非常に難しい問題だよなあと思う。本来、何も捨てないのが理想なんだろうけど。今現在の視点ではとりたてて重要ではない情報が、未来の人にとっては、非常に重要な手掛かりになったりするわけで。
電子媒体の文書の保存や真正性の保証なんかは、これからの問題になるのだろうけど、実際難しいよなあと。今現在の個人的興味は、メタデータと目録の項目分けの問題かねえ。ここ10年ほど溜め込んできた観光ガイド類をどのようにリスト化するか、実に悩ましい。
あと、実務の部分で中性紙の保存箱なんかが紹介されているけど、ああいうプロ用の保存容器って、本当に高いんだよな。一度調べたことがあるけど、設備費だけでどんだけかかるやらとしか。
以下、メモ:
別のあるメーカーでは、従業員教育用に立派な史料館ができていました、館の設立時には展示のための資料が、いろいろな部署やOBから集められましたが、それ以後はやはり定期的な収集がなされておらず、館が完成した時点であたかも時が止まったようだと、話されたのが印象的でした。p.38
ありがちだなあ…
「痛くない注射針」を開発した岡野雅行さんという工場経営者がいます。氏はこんなことを言っています。
愛煙家の方はよくご存知だと思いますが、かつてステンレス製の小型ライターがありました。これが、プラスチック製の100円ライターに駆逐されて久しいのですが、ボディーのステンレスを加工するのに、「深絞り」という技術が使われていました。製品が売れなくなれば、当然これに使われた金型(テンプレート)も必要なくなるのですが、氏のお父さんが、「技術には流行り廃りがあるので、その金型も捨てないでとっておけ」と言われたそうです。
後年、携帯電話搭載のリチウムイオン電池のケースにステンレスが使われ、深絞りの技術が今度はここで蘇りました。古い技術はいつ必要になるか分からない、という好例と言えましょう。p.61
→岡野雅行『俺が、つくる!』中軽出版、2003
まさに何がどう転ぶかわからないって話だな。こういう観点からしても、様々な技術情報をアーカイビングしておく価値があると。
誤解を恐れずにいうと、よい企業文化がよい資料を生み、残される。残された資料がさらにつよい企業文化を醸成し、社会によい影響をもたらし、これがスパイラル状に発展する、という印象を持つものです。
わが国の記録、記憶がいつまでも米国の公文書館に依存するというのは情けない話ではないでしょうか。「証拠を」、「活用を」、という前に、「残すこと」の意義をこの事例は教えてくれています。p.216