川本耕次『ポルノ雑誌の昭和史』

ポルノ雑誌の昭和史 (ちくま新書)

ポルノ雑誌の昭和史 (ちくま新書)

 元エロ本編集者の著者が、自分の体験と収集した過去のエロ本の検証をもとに書いた、エロ本の歴史。1970年代から80年代あたりが中心。業界そのものが、離合集散が激しいので仕方ない部分があるが、どうも、固有名詞が錯綜して分かりにくい。索引か、出版社の系統図みたいなのがあれば、分かりやすかったと思うのだが。
 書店売りのエロ本よりも、取次を通さず、独自ルートで流通した自販機本、ビニ本を中心に語られる。専業の業者によって配本されたエロ本の自販機、あるいはアダルトショップに直接卸されたビニ本と言った独自の流通系統の存在が大きく、これらは奥付の記載が整備されていなくて、あとから考証するのが大変なのだそうだ。あと、さらに暴力団の資金源となっていた裏本ともまた違うのだとか。戦後すぐの時期には、ポルノ写真を売りさばいていたとか。そのあたりも興味深い。
 最近の事情にも、多少ながら言及されている。今となっては画像系のエロ本は存在意義がないよなあ。編集者自身が、DVDの付録みたいなものと言っている話がでているが、昔のスタイルのエロ本は、ネット上でタダで入手できるしな。あと、「ジュブナイル・ポルノ」とポルノ小説の文体の変化の話など。
 しかし、昔のポルノって、特にエロそうに感じないな。特に戦後早い時期のカストリ雑誌から週刊実話誌あたり。あと、70年代あたりの女性の体形とか、髪型のちがいとか。


以下、メモ:

 高野文子とかさべあのまとかは、1980年代に入ると「コミック・ニューウェーブ」と呼ばれるようになるんだが、柴門ふみも含めて、彼女たちに共通するのは「少女漫画家ではない」という言葉に尽きる。
 それまで、女性の漫画家がデビューする場というのはほぼ少女漫画誌という媒体に限られていたのが、そういう商業的なジャンルに囚われずに書く場が作られるわけだ。そうした作家を世に送り出したのは、同世代の編集者だった。しかも、学生時代からコミケットで交流していた同人誌仲間がそのまま編集者、作家としてプロとなるという、それまでの業界では考えられなかった時代が訪れていた。p.37-8


 スタンド業者というのは自販機が出現する前からある商売で、書店ではなく、田舎の雑貨屋なんぞをまわってスタンドに雑誌を並べて売る専門業者です。もともと、東日販などの大手取次を通して書店で本を売っている出版社でも、エロ本に限ってはこのスタンド業者の扱いが大きかった。1970年代に急成長する青年劇画、エロ劇画誌は、その半分近くがスタンド業者扱いだったところもあるのではないかと思う。私が編集者をやっていた「官能劇画」(みのり書房)もそうでしたね。書籍、雑誌の流通というのは基本的には東販・日販という巨大取次が仕切っているだが、「雑貨屋の店頭」なんていうのは縄張り外。スタンド業者が仕切っていて、最近では「コンビニ誌」という呼び方もあるが、そういう意味で言えばこの頃のエロ本といいのは「スタンド誌」と呼ぶべき存在だったわけだ。また「即売」と言って店頭で出版物を卸売りする業者、ゾッキ本と呼ばれる特価本を扱う業者など、出版流通にはアウトサイダーたちがいろいろいる。p.76-7

 取次を通さない出版物の流通経路。現在はどうなっているんだろうな。最近はコンビニも取次が扱っているみたいだし。あと、スタンド業者って、アメリカあたりの雑誌の売り方に近い感じが。

 刑法175条というのはかなり曖昧な法律で、猥褻物を不特定多数に見せたり売ったりしてはいけないのだが、何が猥褻物に相当するのか定義がない。その定義が慣習に任されている部分があるのでエロ本屋さんは大変だ。一般的には「ここまでやったら呼ばれるぞ」とか「さすがにこりゃヤバい」とか経験則で自主規制されている。
 ところが、そのラインは時代によって変化していくのだ。むかしは陰毛なんてモノは一本でも出ていたら捕まったのが、今では平気で丸出し。それでも法律の条文そのものは一言一句も変わっていない。p.150

 でも、ビニ本ブームでは、たぶん日本中すべてのビニ本屋が一度はパクられています。もちろん版元もパクられてます。ブームが潰れたのは、警察の摘発が原因です。必ず捕まるのでは、ビニ本なんか作る人は誰もいなくなりますね。p.153

 ブームが一気にブレイクしたのには、マスコミが煽ったという理由もある。神保町の芳賀書店が繰り返しTVに登場し、深夜番組のレポーターの「こんなに見えてます」「ポルノ解禁」と威勢の良いかけ声が飛びかった。芳賀書店は、元は地味な映画や演劇関係書籍を扱う古書店だったが、自社ビルの上階でアダルト専門コーナーを作っていたわけです。そこが、ビニ本ブームの発信源だった。
 実はエロ本業界では、こうしてマスコミに登場するのを極端に恐れる風潮があるわけです。マスコミで騒がれると警察に目をつけられる。p.155

 「猥褻物」のあいまいさ。猥褻の概念が変わっていくというのもあるが、よく考えるとアレだよなあ。あと、取り締まりの状況とか。