早川和男『新・日本住宅物語』

新・日本住宅物語 (朝日選書 255)

新・日本住宅物語 (朝日選書 255)

 「新」とついているが、1984年出版の本。大よそ30年ほど前、バブルの直前あたりの時期のに書かれた本。時代の変化がどのように現れているか、興味があったので、ブックオフで100円で入手。いまいち乗らなかったので、読むのにやたらと時間がかかってしまった。まあ、変わったところと変わらないところがまだら模様な感じ。結局、全体として住宅の質はどうなったんだろうな。三十年くらいで、鉄筋コンクリも、木造も使い捨てている状況に、あまり変わりはないようだが。
 全体としては、新聞などに書いた文章を2部5章に構成に割付けたものの模様。前半は日本の住居・住宅政策の問題点、後半は欧米の事情の紹介。
 第一章は、悪い住宅が健康や、子供の成長、老人の生活にいかに悪影響を与えるかみたいな話。どうにも、悪い住宅は万病のもとみたいな論調で、ちょっと引く感じ。
 第二章は、貧しい住宅事情にどう対応するかみたいな話。ちょうど、「地上げ」が始まった時期だったようで、初期の事例が紹介されている。当時の地上げによる資金が、大量に暴力団に流れたんだろうな。当時はほとんど野放しだったのかね。ワンルーム・マンションをめぐる軋轢については、結局現在にも持ちこされているよなあ。
 後半第二部はヨーロッパへの留学時の観察を書いたものアメリカ、西ドイツ、イギリスの事情。ドイツやイギリスでは、70年代あたりまでの社会民主主義的な住宅政策が紹介されているが、この後、サッチャリズム市場原理主義、21世紀あたりの土地バブル、サブプライムローン崩壊を経て、どのように変化したのだろうか。しかし、1970年代までのイギリスの住宅に関する手厚い扶助には驚く。しかしまあ、欧米諸国の良いところをつまみ食いして日本の現状を批判しているようには見える。特に、アメリカについては都市中心部の「荒廃」なんかも含めて、必ずしも都市政策がうまくいっていないわけで。中流上層以上の階級の生活だけ見たような感じはする。


 以下、メモ:

 今のように計画というものがいっさいないといってよいほどに乱開発されている日本の都市と国土は、文化遺産や自然環境を次つぎと失い、やがて病状を悪化させ、国土の荒廃とちょっとした“豪雨”による住宅災害などを頻発させていくであろう。p.79

 実際、ゲリラ豪雨による浸水や都市型水害なんてのが、起きるようになりつつあるな。元湿地を住宅地にしたりしているんだから、当然といえば当然なんだが。

 一方、入居者はこうしたトラブルを知らないで住んでいる場合が多い。なかには単身者にとっても良好な住居に住む権利があるとして、業者といっしょになり、建設を促進する運動が起こっている。ワンルームマンションの問題は、あらゆる意味で日本の土地住宅政策の貧困の上に噴き出した病状のようなものだと思う。そして改めて政策の立ち遅れを感じずにはおれない。
 これはワンルームマンションに限ったことではないが、低層の独立住宅地に三、四階建ての共同住宅建築を認めるというのが、おかしいのである。住環境を良好な状態に維持することは法律や政治の役割でああるが、わが国では著しく制度がたち遅れている。p.91

 ワンルームマンションの問題。このあたりは現在にも持ち越しているよな。