杉本のこ『となりの百鬼夜行:1.砂かけババアに懐かれました。』

 ずいぶん久しぶりなHJ文庫。『アレクシオン・サーガ』以来か。なんとなく妖怪ネタなら大丈夫かなと思って買ったが、この種のラブコメっぽいのは割合苦手。
 黒歴史中二病ポエムノートを国語の課題と間違えて提出してしまい、いかにして取り返すか思い悩む主人公の祐樹は、体育館裏の物置小屋で、人間を怖がって引きこもっている「砂かけババア」の千砂と出会う。人間から畏怖されることで妖力を得ている。しかし、千砂は人間を怖がって、脅かすこともできないため、妖力が失われ消滅の危機にあった。祐樹は、黒歴史ノートを回収する代わりに、千砂の人間恐怖症を治すのに協力することを約束して。
 やっぱり砂かけロリ娘の千砂のかわいらしさがこの作品の肝だな。人間を怖がって、人がたくさんいるところに行くと涙目になる妖怪少女。ツンデレもここまで弱っちいと、虚勢なのがみえみえで、かわいいなあとしか感じない。
 全体の構成はだんだん祐樹と千砂の関係が近づいていくが、気持ちの行き違いからいったん距離が離れる、悪事を働く妖怪煤け提灯の襲撃の中、祐樹が告白。千砂の消滅と再開と、ある意味スタンダードなもの。単純だが、徐々に近づいていく描写が丁寧なのが良い。
 一方で、クラスメイトの美少女桃花の出番がほとんどなかったところは勿体ないなあ。今後の三角関係展開も可能ではあるが、一巻のクライマックスでこれ以上ないほどの告白をやってしまっているわけだし。

「怖い話を掲載するネットサイトってあるでしょ? あれに書きこむの。おかげで昔はマイナーだったのに今じゃ有名になった妖怪もたくさんいるのよ。くねくね先輩なんてネット営業のパイオニアね」p.26

 ネット経由の妖怪としては、出世頭ではあるなあ。思わず笑ってしまった。