小山慶太『エネルギーの科学史』

エネルギーの科学史 (河出ブックス)

エネルギーの科学史 (河出ブックス)

 「エネルギー」をキーワードに、科学の歴史を18世紀辺りから描いた書物。最初の二章は古典科学の範疇である熱や電気の物理学。よく考えると、19世紀後半の電磁気学の発展と、そこからモーターや無線通信なんかの実用化の間の水かさはすごいな。ケルヴィンの隕石の落下の熱エネルギーで、太陽の寿命を計算する研究とかおもしろいな。地球の歴史がせいぜい一億年とか言われたら、古生物学者とか、困るわな。
 20世紀初頭あたりから、放射能の発見と原子核の研究が進み、原子核の内包するエネルギーへの理解が進む。しかし、このあたりの原子核とかの不確定性原理って、なんか理解を絶しているよなあ。観測したら分からなくなる仮想粒子のやり取りによって、力が伝達されるとか、だまされているような気分だ。「にぎやかな真空」か。物理学が宇宙の観測に応用されていく状況なんかも興味深い。
 しかし、シカゴ・パイルが怖いな。都市の近くで、遮蔽のない原子炉稼動とか。周囲の放射能汚染はどの程度だったんだろうな。つーか、運転と撤去にかかわって、傷害をうけた人多そうだな。
 物理学の歴史が平易に解説されていて、読みやすい本だと思った。

 しかも、地下水は同時に制御棒の役割も担っていたらしい。核分裂の連鎖反応が進行すると地下水の温度は上昇し、やがて蒸発してしまう。そうなると二次中性子は減速されないので連鎖反応にブレーキがかかり、原子炉は一時的に停止することになる。しかし、温度が下がり、そこへ再び地下水が流入すると、原子炉はまた稼動し始めるのである。
 採取した鉱石に含まれる元素の同位体分析から、天然の原子炉は三〇分間稼動すると、二時間半以上停止するというサイクルが出来上がっていたらしい。間欠泉のような規則性をもって断続的に核分裂を繰り返しながら、原子炉は数十万年にわたってエネルギーを生み出していたのである。幾多の偶然が重なった結果であるが、これほど巧妙な自己制御システムが自然に構築されていたことに、あらためて驚かされる。p.159-160

 ガボンのオクロにあった天然原子炉の紹介。間欠泉みたいに反応したり、止まったりしていたらしい。おもしろいな。20億年前ということは、地上に生物はいなかったんだよな。目撃するものもない場所で、そういう反応が起きていたと。
日経サイエンス』の2006年2月号に際しい解説があるらしい。