根本祐二『「豊かな地域」はどこがちがうのか:地域間競争の時代』

「豊かな地域」はどこがちがうのか―地域間競争の時代 (ちくま新書)

「豊かな地域」はどこがちがうのか―地域間競争の時代 (ちくま新書)

 うーん、ある世代がどのように変化しているかを追った人口コーホート図をクローズアップしているけど、なんかそれほど機能していないように感じるが。あと、結局、人口のトレンドを変える手段として、都市圏のベッドタウンとなって、周辺から住民を持ってくるくらいしか、メニューがないような。まあ、自然増が望めない状況で、人口を増やすにはそれしかないんだろうけど、都市圏全体が地盤沈下していったら一緒に沈むだけだよなあ。あと、分析の単位が自治体なのも、地域全体を見られなくしているのではなかろうか。
 本書のかなりの部分を占める実際の自治体の分析事例も、疑問を感じるものが少なくない。例えば、ケース6は大阪市此花区ユニバーサル・スタジオ・ジャパンを誘致した結果、人口が大幅に増えたと読める分析になっているけど、そう判断した理由が書いていない。工場跡地へのマンションの建設など、他の要因を排除しないと、ただの自慢話になってしまうのではないだろうか。遊園地施設の成功には、コンテンツの蓄積が必要という指摘はおもしろいが。
 あと、漁港都市として、銚子市三浦市館山市の比較を行なっているケース8も気になる。高校から大学生が外部に流出しているのは三市とも共通しているが、館山市のみは他の世代の流入が僅かながら見られる。これに関して、館山市のみが、漁業からの産業の転換を図ることに成功したためとするが、地理的状況をもっと重視するべきではないだろうか。近くに大規模港湾と工業地帯が造成され、交通の幹線から外された銚子市。横須賀や横浜の不便なベッドタウンになってしまっている三浦市。それに対し、房総半島の突端にあり、自立した都市圏を維持している館山市。自立的な都市圏を維持しているという地理的要因を重視すべきではないだろうか。館山市の人口流入がどこから来ているかをもっと追求するべきだと思う。南房総市から人口を奪っているのではないかと感じるのだが。
 石垣市稚内市の比較も。石垣市の人口増加に関しては、外的要因というか、オリエンタリズム的な南国という宣伝によって移住・長期滞在者が増えている。それに対し、稚内ではそのような移住が望めない格差は、もっと強調されるべきだと思う。
 総じて、分析が物足りない。第三章の長期人口推移、コーホート分析、従業・通学分析、経済センサスの組み合わせというのは、まだ理解できるのだが、ケーススタディでは全部が活かされていない感じが。あと、「シティ・マネジャー」の紹介で、中立的な立場で、客観的な情報を整理して、選択肢を提示するとあるが、それ自体が一つの「政治的立場」なのではないだろうか。「合意形成」がどのようにされているかを分析しないと、権威主義的な統治手段にしかならないように思うのだが。そもそも、自治体の制度が全然違う日本で、アメリカではやっている方法を取り入れる意味がどこまであるのか。自治体の「経営」の議論をするなら、むしろヨーロッパの大陸諸国の事例を検討するほうが有益だと思うのだが。何かというとアメリカでという風潮には疑問を感じる。


 以下、メモ:

 私は、駅前ビルの活性化のために、空いているところに部分的にテナントを入れていくような中途半端なやり方ではだめだと考えています。たとえ繁盛するテナントが入ったとしても、それは一部の話であり、建物全体、地域全体にプラスの影響はないと思います。もちろん、今のまま、まるごと使ってくれるテナントもいないでしょう。
 今や最善の方法は、市役所として使うことだと思います。1972年に建設された木更津市役所は、40年を経過した老朽化物件です。12年4月に公表された耐震診断結果では、大きな地震に耐えられる目安の最低限であるIs値(耐震指標)の0.3を大幅に下回っています。再度東日本大震災並みの自身が起きれば、倒壊する危険がかなりあると言えるでしょう。p.70

 駅前の再開発ビルの問題。人が入らない再開発では、かなり思い切った対策が必要と。

 本田市長は、東日本大震災発生の5年前から、三陸沿岸の大規模災害時における後方支援拠点の構想を提起し、多くの主体を巻き込んだ協議会を開催し、実際に、後方支援訓練を行ないました。07年の「岩手県総合防災訓練」、08年の「みちのくALERT2008」という名称の自衛隊を巻き込んだ防災訓練です。
 遠野市の防災訓練の特徴は、多様な利害関係者を巻き込んで、一つの自治体の地域・枠組みを超えて、広域的な訓練を行なった点にあります。また、訓練の前提となる被害想定は、過去、明治三陸地震昭和三陸地震津波災害を受けた歴史に学びながら、東日本大震災に類似した条件を置いていました。さらに、それらの訓練を実施するためには、長期間にわたる粘り強い準備・調整を通じて、組織間・個人間の信頼関係が構築されていました。こうした良い条件が重なって大きな成果を上げることができました。p.240

 これは素直にすごいな。