川崎健『イワシと気候変動:漁業の未来を考える』

イワシと気候変動―漁業の未来を考える (岩波新書)

イワシと気候変動―漁業の未来を考える (岩波新書)

 再読。いくつか漁業関連の本を読んだ後で、本書を読むとどんな感じかなと思って。
 さまざまな海洋生物が、数十年単位の海洋環境変動に影響されて、極端に個体数が変動していることを指摘し、漁業資源の管理もそのような環境変動、「レジームシフト」に合わせたものにすべきだと指摘する。前半は、太平洋の東西でイワシとカタクチイワシの漁獲の変動が同期していることの発見から始まるレジームシフト論の解説。後半は、漁業資源の変動要因が漁獲のみとする従来の「平衡理論」ではなく、レジームシフトによる漁業管理が必要だと指摘する。


 全体的には、いまいちわかった気がしないが、地球全体で一体の機構システムになっており、全世界で小型浮魚資源の変動が同期していること。このような変動のメカニズムとしては、インド洋や太平洋の熱帯における海面水温の変動が、アリューシャン低気圧などの大規模な気団を通じて、全世界に影響していること。また、動物・植物両方のプランクトンを摂取できるイワシ類が、このような気候の変化を猛烈に増幅し、極端な増減を示すという。
 冷たい環境に適応するイワシの日本近海での漁獲量と、暖かい環境に適応するペルー近海のカタクチイワシ(アンチョベータ)の漁獲量と、反対の性格のものが同期することに関しては、赤道周辺の南東貿易風によって海水が太平洋の西に吹き寄せられ、結果、東太平洋で冷たい深層水の湧昇が起こることによるようだ。北太平洋十年スケール振動(PDO)の温度変動が、温暖相の時には東太平洋では温暖に、一方日本近海や南太平洋などでは寒冷に。逆に低温相の時には東大西洋が寒冷に、日本近海では温暖にと、同時期に正反対の状況になるからのようだ。


 後半は漁業管理の問題。海洋が、EEZによって分割されている状況。また、海洋法条約の資源保護の基盤になった考え方が、平衡理論に基づいていて、限界があること。一体の生態環境がEEZで分割され、その領域内では国家主権が強力なため、事実上無管理状態に陥っている状況が指摘される。結果として、レジームシフトによる個体数変動に即した管理が難しい状況にある。レジームシフトを前提にした漁業管理では、環境変動に伴う増減を妨げないことが重要であること。特に減少期には禁漁にして、資源の温存を図ることが重要という。
 現在の日本の漁業規制は、基本は投入量規制であり参入制限や隻数制限などを規制することによって資源を保護しようとしている。しかし、沖合漁業の場合は、その規制があまり機能していないこと。日本でも、沖合漁業の資源に関しては許容漁獲量(TAC)が設定されているが、それは「漁業経営等の事情を勘案して」決定されるため、過大な量に設定されることが多く、乱獲にお墨付きを与えている状況にあるという。対応として、IPCCのような科学者による常設委員会を設置すべきではないかとするが、現在でも地球温暖化への懐疑が政治的な力を持っていることを考えると、難しいのではないだろうか。漁業経営に打撃を与える数値を飲ませるのは難しいように思うが。
 しかし、マサバがレジームシフトの上昇局面にのって拡大しようとしているときに、卓越年級を取り尽して、上昇を挫折させてしまう、巻き網漁業の攻撃力はでかいな。現在、北西太平洋のマイワシ・マサバ資源が低水準期なので、漁獲を抑える必要があるそうだ。ただ、レジームシフトという30年ほどの期間でおきる変化を、制度に取り込むのはなかなか難しそうに思う。
 また、終章のポーリーやマイヤーズといった水産学者の研究への批判も興味深い。平衡理論にもとづいた議論や政治性に裏打ちされた議論への批判。気候変動を防ぎ、持続的に現状のリズムを維持する必要性。


 以下、メモ:

 マイワシは基本的には沿岸魚である。沿岸水域に生息しているマイワシは、全体のバイオマスは小さいが過密状態ではなく、個々の魚の栄養状態はよく、質の高い卵や精子を産み出し、質の高い子どもが資源に加入してくる。環境条件にこうしたシフトが生じると、太平洋系統群の一九七二年級の場合のように、質の高い卵からの生き残りが一気によくなり、マイワシは沿岸魚から大回遊魚に変身する。このメカニズムはよく分からないが、昆虫の世界(とくに、バッタ類)に見られる「孤独相」から「群居相」への変身と同様である。これを相変異というが、「沿岸相」から「回遊相」への変身である。p.48

 マイワシも生息密度によって、生態を変えると。

 ところで最近、イギリスのフィッシング・ニュース社から、大きなニュースが飛び込んできた(“Fishing News International”April 2009)。カナダの海洋科学者たちによると、「グランドバンクスのマダラ資源が急速に回復してきており、現在の産卵資源のバイオマスは一五万トンと推定される」という。シフトが生じたのである。G.ローズは、「一九七二‐九五年のひじょうに冷たい期間の前の三〇年間は暖かい時期で、状況は当時に戻りつつある。マダラ資源の増加を継続させるために、禁漁は当面続けられるべきだ」という。「資源が低水準のときにには、禁漁にして回復をじっと待つ」という、レジーム・シフト理論に基づく資源管理は、すでに行なわれている。p.147

 レジーム・シフト理論に基づく資源管理。しかし、人間は30年も待てないような…
 食文化や流通のあり方が変化してしまいそう。

 日本特有の制度である共同漁業権は、コモンズとしての地先の水域の、漁業協同組合による生態系管理の側面を持っている。これを、漁業者集団が人類を代行して、生態系の持続可能な利用を行なう、という位置づけにする必要がある。しかし近年危惧されるのは、この方向とは逆に、国家が資源を分割して、その利用権を企業または個人に配分、または再配分する動きである。これは一九八〇年代に入ってからアイスランドニュージーランドなどで、IQ(Individual Quota 個別漁獲割当て)またはITQ(Individual Transferable Quota 個別譲渡可能漁獲割当て)の形で行なわれている、資源利用権の分割・分配である。p.197

 まあ、漁協の否定は、東日本大震災を利用しての「特区制度」という形で行なわれるようになっているけど。地先の漁業は、漁協に任せておいていいと思うのだが。一方で、沖合の漁業に関しては、個別割当てはそれなりに機能しそうだと思うのだが。巻き網漁の攻撃力が高くなりすぎている状況を考えれば、ある時点の船団を既得権として、配分制度を創設するのは悪くないんじゃね。