中野明『物語 財閥の歴史』

物語 財閥の歴史(祥伝社新書)

物語 財閥の歴史(祥伝社新書)

 明治初頭の財閥の形成から戦後の財閥系企業の再編までを扱っている。平易に、財閥の流れを整理している。三菱・三井・住友を中心に、古河・大倉・浅野・藤田・川崎・渋沢あたりが対象。なんとなく、「財閥」と言うと、第二次世界大戦直前の状況がイメージとしてあるけど、歴史的展開を経てきたのだなというのを改めて確認させられる。あと、やはりスタートダッシュの時点における政府から受ける便益の大きさ。戦争への協力からの利益、公金の取り扱い、国費を投じて開発された鉱山工場の払い下げなどを通じて、財閥は地歩を確立している。三井、三菱、古河など、鉱山の独占支配から財閥に発展した家系は多い。また、払い下げを受けた企業の中では、結局生き残れなかった企業も多いと。
 「天保世代」がイノベーションの時期に脂が乗り切っていて、かつ先行利益を得ることができる、重要な指摘であるというのが興味深い。アメリカでも巨大な財閥を形成したのは、19世紀半ばの世代が多いというのも興味深いな。蒸気機関の利用から始まる産業革命が成熟し、人間社会を大きく改変した時期に、ちょうど居合わせることができたか。ヨーロッパではどうなのだろうか。あまり思いつかないのだが、日米はヨーロッパで見られなかったような乱暴な体制変革が行われたということなのだろうか。後は健康で、肝心な時に病に倒れないことも重要だそうで。


 以後、明治の20年前後から、財閥の経営の多角化の進展。それが世紀の変わり目、日清日露両戦争の時期に完成し、産業の独占的支配体制を完成させる。一方で、この時期、産業革命の波に乗って新興財閥も出現する。また、財閥の成長には人材が重要であり、この点で江戸時代以来の蓄積を持つ三井住友や人材の抜擢が上手だった三菱が決定的に有利になったこと。一方で、結局はワンマン経営者が時流に乗って拡大した他の企業では、人材の育成に必ずしも成功せず、二流の地位に甘んじざるを得なかったという。
 続いては第一次世界大戦から戦間期第一次世界大戦に伴うバブルで急拡大した鈴木商店を筆頭に、「二流」の財閥が積極的な活動で大きな儲けを出す。川崎や浅野あたりが積極的な経営の例に挙げられている。ここで蓄積した資本を元に、各財閥が銀行を設立する。しかし、第一次世界大戦後のバブル崩壊とそれから続く不況の中で、基盤が弱い銀行は次々と破綻し、強い経営基盤を持つ三井三菱住友第一安田の五大銀行に預金が集中することになる。また、バブル崩壊で慎重な取引に終始した三井以外は甚大な被害を被ったと。
 戦間期には財閥の支配力が拡大し、そのことが世論の厳しい目を呼び起こすことになったこと。在来財閥の持ち株会社化。また、化学産業を中心に、日窒、森、日曹、理研、日産などの新興コンツェルンが発展する。時代ごとの特色が興味深い。


 最後は戦時体制から戦後への動き。戦時体制への移行と軍需生産の拡大の中で、重工業を中核とする財閥は拡大を続け、重工業への傾斜を鮮明にする。また、間接金融への依存など、戦後に繋がる特色も現われてくるという。一方で、新興のコンツェルンは不利な立場に陥ることになる。
 敗戦後、財閥解体で財閥を支配していた家系は退場を強いられる。しかし、それはそれ以前から進み、戦時体制で加速されていた、個人の経営から専門経営者への移行のプロセスの継続と見ることができるという。財閥家系は退場したが、会社の専門経営者はそれぞれつながりを維持し社長会を組織した。また、銀行を核に旧財閥系の企業が再集合し、「企業グループ」を形成する。財閥は終戦で、「断絶」すると同時に、企業としては「継続性」が強かったと指摘する。


 以下、メモ:

 まず背景として押さえるべきなのが、明治維新が成立して日本が世界の国家に伍するためには経済発展、そのためには殖産興業、すなわちお国の工業化が不可欠だったという点が、時代の根底にあったということだ。
 そのためには国の手先となる道具が必要だ。ここに登場するのが政商である。国だけでは手に余る殖産興業は彼らの手を借りなければならない。
 この点を端的に示しているのが、日本の海運を振興するために大久保や大隈らがとった、岩崎弥太郎率いる三菱に対する手厚い保護である。p.59-60

 うーん、中岡哲郎の『日本近代技術の形成』や鈴木淳の『明治の機械工業』を読むと、明治初頭の政府の産業政策は必ずしも適切なものではなかったと指摘されるわけだが。結局、第二次世界大戦の時点で、日本の産業界が大量生産の点で限界を抱え続けていたわけだし。その点で、やはり財閥・政商を擁護はできないような。

 実はこれを傍証する指摘がある。アメリカの著名ジャーナリストであるマルコム・グラッドウェルは「歴史上の世界の富豪ベスト75」を分析して面白い事実を発見した。七五人のうち、トップの石油王ジョン・D/ロックフェラー(資産三一八三億ドル)、二位の鉄鋼王アンドルー・カーネギー(資産二九八三億ドル)を筆頭に十四人が、一九世紀半ば(一八三一‐一八四〇年)の一〇年間に生まれたアメリカ人だったのである(マルコム・グラッドウェル『天才!』)。p.113-4

 ちょうど産業化や株式市場の整備時期と重なったということだろうか。このあたり、ジョブスやビル・ゲイツ、ラリー・エリソンなどのIT産業関係の富豪にも言えそう。同じ能力を持っていても、多分後発組はあそこまで大きな企業を作れないだろうな。