テキヤはどこからやってくるのか? 露店商いの近現代を辿る (光文社新書)
- 作者: 厚香苗
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2014/04/17
- メディア: 新書
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第一章と第五章が現在のテキヤについて。「テキヤがどこから来るのか」については、はじめにでさっくりと種明かしされているが、地元の人が大半であること。一方で、「なわばり」というのは固定的なものではなく、かなりなわばり外からの来訪があること。なわばりというのは、地元の団体が仕切る範囲であること。東西日本の文化の壁。東京では複数の団体が共同で仕切っている状況。職業神としての神農。親分子分関係の機能。オーラルコミュニケーション重視。暴力団との微妙な関係などなど。
あと、民俗学がつい最近まで、テキヤのような都市の独自集団に関心を持ってこなかったこと。むしろ、「社会病理学」のような分野に興味をもたれてきたこと。このあたりは「民俗学」の限界だよなあ。農村に興味を持ちすぎたというか。まあ、歴史学なんかも階級闘争とかやってた時代なわけだが。
第二章は近世の状況。史料が少なくて現在のテキヤとどの程度繋がりがあるか不明と。由緒書きがたくさん残っているということは、朝廷か幕府を背景に、どこかの勢力が組織化しようとした痕跡なんじゃなかろうか。大岡越前を持ち出しているということは、関東の人間なのかね。由緒書きの分布を追ってみると、おもしろいかも。調布市の橘屋野口家に残された近世から残るテキヤの史料も興味深い。種苗販売、農業養蚕などを中心に多角的に経営してきた家というか、地方名望家ってことなんだろうけど、他には残っていないテキヤの史料が19世紀あたりからずっと残っているのがすごい。野口家の来歴そのものがどんなものなのだろうか。
第三章は近代に入ってから。多くの人が小資本の商売として参入した状況。周縁的な存在と見られた様子や、地方議員を出して近代的組織化を図った状況が紹介される。
第四章は戦後の闇市とテキヤ業界。いち早く、闇市を仕切って、自治的な空間を形成した状況。GHQや警察などとも連携し、一方で統制の一部をになった状況。しかし、公道上での商売は問題ありとして、常設の市場に集約されている流れが紹介される。野口家の史料から、親分衆が頻繁に集まって、さまざまな問題で討議していた状況。
東京のテキヤ団体への聞き込みから、東京のテキヤの状況を明らかにしている。あくまで東京の露天商の姿といった感じだが。あと、最近は、暴力団追放などの関連から研究が難しくなりつつあるという。
以下、メモ。
「十三香具師虎の巻」はいわゆる偽文書で、書かれている内容が歴史的な事実である可能性は低い。だから、文書の中に年号があっても製作年代は不明と考えたほうがよい。香具師の由緒書には享保など近世後期の年号が多いので、近世後期以降、香具師たちが由緒書を持っていたほうがいいような社会的な状況になったのかもしれない。p.42
このあたり、「身分的周縁論」のテーマになりそうな感じだな。上から組織化しようとする勢力がいて、下からも排他的な独占権確立のために近づいたみたいな流れを想定できそうだけど。
現在、この香具師という単語がよく使われているのはインターネット上の掲示板で、「○○のヤツ」という表現をするときに「○○の香具師」と書くネットスラングができている。ヤツとするべきところ、ツをシにしてヤシと打って変換キーを押すと「香具師」が出てくるので広まったようである。p.53
あー、あったねえ。最近はあまり見かけなくなったけど。「香具師」が検索語にはいると、今でもネットスラングの方が引っかかるけど。
そんななか、二一世紀になってから約一〇年をかけて行われた、東京都調布市の野口平一家資料調査では、第二次世界大戦後の混乱した東京で、伝統的な露天商たちが従来からのネットワークを駆使して迅速に動いた様子が生々しく伝わる史料が大量に発見された。同様の史料は江戸東京博物館(以下では「江戸博」とする)に所蔵されているが、それらは元警視庁の吉沢厳などから寄贈されたもので、在来の露天商ネットワークにつながっているところから一括資料が見つかったのは、この調査が初めてである(以下、「野口家資料」とする)。p.104
よく残ったものだ。警察側にも同様の情報が残っていたと。
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