細川博昭『江戸時代に描かれた鳥たち:輸入された鳥、身近な鳥』

江戸時代に描かれた鳥たち 輸入された鳥、身近な鳥

江戸時代に描かれた鳥たち 輸入された鳥、身近な鳥

 江戸時代の後期、19世紀に描かれた図譜に収録されている鳥たちを、現在の分類で同定して、配列して紹介している本。前半は輸入された鳥を、後半は日本に生息している鳥と分けられている。しかし、日本産鳥類でも、見たことのない鳥ばっかりだな。基本、住宅地か、水辺にいる鳥しか目にすることないし。見かけても、種まで理解して見ていないからなあ。博物画として描かれた鳥の絵が多数収録されて、ビジュアルに楽しめる書物。
 しかし、19世紀になると、想像以上に多種多様な鳥類が、日本に輸入されていたんだな。19世紀に入っているから、ヨーロッパで標本とか生体の販売が盛んになっていた事情もあるのだろうけど。本書を読んで、18世紀以前の生体の輸入がどのような状況だったのかが気にかかるようになった。輸入された鳥は東南アジア産が主体で、オランダがインドネシアを拠点としていたことから、納得できる状況。オーストラリアから輸入している鳥もいるが、この時期だと植民地ができているんだよな。
 南米やアフリカ西海岸に生息しているインコ類の場合は、どのルートをとったのだろうな。中南米産鳥類なら、ヨーロッパを経由するより、マニラガレオンで太平洋を渡ってマニラからは中国商人が運ぶルーとの方が可能性は高いかな。文化14年のものは中国船が持ち込んでいるから、そっちの可能性が高いと思う。文政9年のものは、マニラガレオン廃止後だが、メキシコからフィリピンへの交易船はどうなっていたんだろうか。
 江戸時代に輸入された生物は、いちいち長崎で絵に描く形で記録に残されたのだな。あと、日本における鳥類の旺盛な需要も興味深い。


 以下、メモ:

 なお、明治から昭和にかけて、日本で生産されたカナリアアメリカやヨーロッパに大量輸出されたが、その基盤となる繁殖技術が確立されたのも、この時代である。p.23

 へえ。近代にはいって、日本がカナリアの供給元になったのか。しかし、江戸時代のこういうペットとか園芸の文化のレベルの高さがすごいな。

 キボウシインコは、ベネズエラとその沖に浮かぶオランダ領ボネール島などに棲む。十九世紀以前は、ボネール島周辺のほかのオランダ領の島にも生息していたが、現在は絶滅。描かれたインコは、このボネール島(もしくはその周辺の島)からオランダ本国を経てアジアに運ばれたものと推察されるが、記録ではこの鳥は、清船によって文化十四年に日本に持ち込まれている。p.34

 オランダ本国からの可能性もあるけど、やはりマニラガレオンルートの可能性の方が大きいと思うが。オランダ経由だと、時間がかかりすぎるし。

 ジュウシマツもブンチョウも、江戸末期には飼育の技術が確立されて、「飼いたい」という需要に対応するための「生産」も始まっていた。ブンチョウの里としていまも知られる愛知県の弥富町も、そうした生産地のひとつだった。p.38

 弥富市と言えば金魚の生産で有名だけど、ブンチョウの生産でも有名なのか。白文鳥は、弥富市で出現したものだそうだけど。
弥富市-白文鳥発祥の地 へ行ってきました!
白文鳥発祥地 弥富〜文鳥紀行: ぶんの徒然日記 - 山に登ったあひる


文献メモ:
内田康夫・磯野直秀解説『舶来鳥獣図誌』八坂書房、1992
磯野直秀「江戸時代の禽譜図譜と養禽書」『慶應義塾大学日吉紀要』1992
磯野直秀「明治前動物渡来年表」『慶應義塾大学日吉紀要』2007